(ブルームバーグ):著名デザイナーNIGOこと長尾智明氏が創業したファッションブランドHUMAN MADEが11月末に上場した。最高経営責任者(CEO)として同社を率いるのが、ユニクロでTシャツブランド「UT」の立ち上げなどに携わった松沼礼氏(47)だ。ファーストリテイリングの柳井正社長の薫陶も受けた同氏は、HUMAN MADEを世界的なアパレルに進化させようと意気込んでいる。
HUMAN MADEをグローバルブランドにしてほしいーー。UTのプロジェクトで一緒に仕事をしたNIGO氏にそう声をかけられたのは、新型コロナウイルスが感染拡大し始めた2020年のことだ。当時はユニクロで国内マーケティングの統括部長を担っていた。約1年後「自分の手で事業を創って新しい価値を生み出す人になりたい」と考え、入社を決めた。
国内外にファンも多いNIGO氏の手がけるブランドとして、HUMAN MADEの商品は当時すでに人気があったが、企業としては発展途上だった。最高執行責任者(COO)として入社した松沼氏が最初に取り組んだのは、組織図を作ることだったという。ユニクロでは当たり前だった販売計画に基づいて商品開発、生産、販売を行う仕組みもなかった。商品自体の品質は高いにもかかわらず、コンスタントに供給されず、「非常にもったいない販売の仕方をしていた」と松沼氏は振り返る。
クリエィティブとビジネスの分離によるバランスの取れた経営をHUMAN MADEでは掲げる。そのビジネス部分を最高財務責任者らと支えるのが、松沼氏の役割だ。現在では、毎週土曜日に新商品を発売し、翌朝までに売り切るサイクルを定着させた。
以前はNIGO氏が出すアイデアをもとに商品を作る流れだったというが、季節ごとの販売計画や商品構成を組み立て、その計画に沿ってNIGO氏にデザインを依頼するプロセスへと改めた。現在は、渋谷区代々木の本社でNIGO氏とクリエイティブチームが定期的に集まり、新商品の企画を練る。
過度な在庫を抱えず値下げしないため、前期(25年1月期)の営業利益率は28%とアパレル業界では高い水準だ。売上高も約113億円と、COO就任後3年間で3倍以上になった。公開価格を基にした時価総額は717億円で、12月に入り1000億円を上回る場面もあった。
今の松沼氏を形作っているのは、ユニクロでの経験だ。04年にユニクロにグラフィックデザイナーとして入社し、入社4年目にはUT事業のチームリーダーを務めた。柳井氏の「影響は本当に大きい」といい、事業を運営する上で、常に自分が最終責任者の意識で行動し、他責をしないことを学んだという。
事業運営では良いこと悪いこと、予期しないこと含めてあらゆることが起きる。柳井氏からは「すべては自分が起こしたことと思え」と指導されたという。また「全身全霊で部下と向き合う」、「死ぬときに残したいのは事業と思想」などの柳井氏の言葉はメモとして残し、今でも自宅の寝室に貼り、いつでも見られるようにしているという。
東京証券取引所のグロース市場に上場したHUMAN MADEは次のステージを見据えている。2年以内に海外法人を設立して海外展開も本格化させる予定で、中国では上海などの情報発信力の高い都市への旗艦店出店を狙う。
景気の悪化や政治対立などで、日本企業にとって中国は厳しい市場だ。松沼氏は「中国の売上に依存するような計画は立てない」とし、他地域への展開も進めてリスクを分散するため、ソウルとバンコクでも提携店舗を拡大する考えだ。
一方で目下の課題は、国内の品薄に対応することだ。現在の「並んでも買えない」状況に対応するべく、26年に東京・原宿に、27年には大阪・梅田に旗艦店をオープンする予定だ。現在の店舗よりも最大で4倍の面積と品数を用意する見込みという。
国内外でアパレルブランドなどを合併・買収(M&A)する方針だ。松沼氏は日本には海外での展開を検討するデザイナーやクリエイターは多いが、経営を担ってもらえるような人がいないということもあると話す。HUMAN MADEのような「仕組みやナレッジを応用できるブランドもきっとあるだろう」という。
「服やサービスを通じてカルチャーを届けていきたい」。会社規模、商品の価格は違っても変わらず人生を賭けてやっていきたいと話す松沼氏。「尊敬する柳井さんのように世界をよりよくする経営者にいつの日かなりたい」と意気込む。
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