野村ホールディングス(HD)の株価純資産倍率(PBR)が2日、約9年ぶりに1倍を回復した。資本効率の改善を促すために東京証券取引所が求めている水準に達した。直近決算での収益性の改善が評価され、株価は2008年10月以来の高値水準で推移している。

一時前日比1.1%高の1189.5円まで上昇した。25年9月末時点の1株当たり純資産(BPS)1188.05円を上回った。PBRが1倍を下回っていると、理論上は株式価値よりも解散価値の方が高いことを意味する。ブルームバーグのデータによると、野村HDの1倍回復は16年12月以来となる。終値は1185円だった。

野村HDの株価は年初来安値を付けた4月7日以降、約77%上昇した。市場予想を上回る2025年7ー9月期(第2四半期)の決算結果を受けて、11月には株価の上昇ペースが加速していた。

野村HDのロゴ

野村HDの株価上昇についてブルームバーグ・インテリジェンスの伴英康シニアアナリストは「2四半期連続で株主資本利益率(ROE)が10%を超えたことで、業績のダウンサイドリスクが薄れたことが評価されている」と指摘した。

東海東京インテリジェンス・ラボの摩嶋竜生シニアアナリストも、投資一任契約などに伴う残高に応じたストック収入が増加して業績の安定性が向上していることを踏まえ、11月25日付で目標株価を1000円から1700円に引き上げた。

日本では企業統治改革が進み、資本効率を意識した経営がより重視される。東京証券取引所は23年3月、PBR1倍割れの企業に改善を要請した。

証券業界では大和証券グループ本社が24年1月に1倍を回復したほか、松井証券やマネックスグループ、東洋証券や丸三証券などが1倍を上回っている。東証の要請から2年9カ月を経て、証券最大手の野村HDも1倍を回復した。

同社は収益性を示す指標で、投資家も注目するROEの安定的な8ー10%の達成を定量目標に掲げる。目標を達成することで市場からの評価の引き上げを目指している。10月下旬に発表した25年7ー9月期決算によると、同期の年率換算ROEは10.6%と4-6月期の同12%に続き、目標を上回った。

野村HDの奥田健太郎社長はきょう午後に開催した投資家向けイベントで「安定的に稼ぐ力を確立して、確かな成長フェーズに入っている」との自信を示した。PBRが1倍を回復したことについて野村HDの広報担当者は、経営ビジョンの実現に向けた取り組みをさらに加速し、持続可能かつ力強い成長の実現を目指していくとコメントした。

S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの松本理氏は、ウェルス・マネジメント部門やインベスト・マネジメント部門でのストック収入が積み上がっていることを評価した上で、海外事業の収益基盤の安定性を注視している。「野村HDが推進してきたコストコントロールが継続して維持できるかが重要だ」と述べた。

 

一方、バブル崩壊以降の野村HD株の日中取引ベースでの最高値は00年2月に付けた3510円。足元の株価水準はその3分の1にとどまる。当時は活況な株式市場と連動するように同社株も好調だった。米ゴールドマン・サックス・グループを抜き、世界の主要証券会社で2位の時価総額を誇った時期もあった。当時の東証1部の金融株として1位にもなった。

打撃を与えたのが世界的な金融危機に至る兆しとなった07年8月のパリバ・ショックと08年のリーマン・ショックだ。08年3月期から2期連続で最終赤字を計上した。収益の柱が株式売買に伴う委託手数料に偏り、市況が低迷すれば業績も落ち込む事業モデルの弱さが露呈した。

その後、資産管理型ビジネスやM&A助言業務など市況に左右されにくい事業モデルへと構造変革を進めてきた。それでも改革は道半ばだ。資産管理型ビジネスなどの事業モデルで先行し、国際的な投資銀行業務にも強い米JPモルガン・チェースやゴールドマンの時価総額は野村HDら日本勢をはるかに上回る。PBRでもJPモルガンが2.4倍、ゴールドマンは2.2倍をそれぞれ超えており、差は大きい。

 

(株価動向や野村HDのコメントを加えるなどして記事を更新します)

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