米国で経営学修士(MBA)を取得した大学院卒業生にとって、経営コンサルタントほど人気のある職業はなかなかない。

ブルームバーグ・ビジネスウィークが毎年実施するビジネススクール番付向けに集めたデータによると、「MBB」と呼ばれるマッキンゼー(M)、ベイン・アンド・カンパニー(B)、ボストンコンサルティンググループ(B)を中心とするコンサルティング企業は、MBAホルダーにとって依然として最も人気のある就職先だ。初任給が最も高い業界の一つでもある。

2025年卒のMBA取得者でコンサルティング業界に就職した人の初任給とボーナスの合計の中央値は、20万5310ドル(約3200万円)と、全体の中央値を21%上回る。

ただ経済全体が現在、人工知能(AI)によって揺さぶられているとすれば、コンサル業界は津波に巻き込まれていると言える。

コンサルタントが通常行っている調査、情報の統合・分析の多くをAIがこなせるようになれば、コンサルティング企業は今と同じだけのアナリストを雇う必要があるだろうか。今までと同じ数のクライアントがコンサルティング企業を必要とするだろうか。

ベインのパートナーで人材採用のグローバル責任者、ロン・カーミッシュ氏は、「この問題について、多くの時間をかけて話し合い、社内で議論している」と明かす。

プロジェクトチームに対して、クライアント企業と共に可能な限りあらゆる方法でAIを活用するよう指示しており、そうすることで「さまざまな問いに対する答えを真に理解できるようにしている」と言う。

ダイヤモンド型

コンサルティング各社が抱える根本的な問いは、AI時代に自社がどんな組織となるのか、さらにコンサルタントの仕事自体がどう変わるのか、というものだ。

ブルームバーグが最近伝えた通り、あるAIスタートアップは、トップクラスのコンサルティング企業の元コンサルタントを採用している。業界の初歩的な業務についてAIモデルを訓練するためだ。

インディアナ大学ケリー・スクール・オブ・ビジネスの雇用関係担当エグゼクティブディレクター、ミュゲ・トゥナ氏はコンサルティング企業の組織構造について、基盤に多くのジュニアコンサルタントを抱える「ピラミッド型」から「ダイヤモンド型」へと移行すると予測している。

「中間層が拡大し、AIチームを管理するようになる」とトゥナ氏。この場合、チームは人間ではなくAIモデルで構成されたチームを示す。

同氏によれば、コンサルティング企業は既に、AIの扱い習熟をMBA取得者の基礎的な能力とみている。「10年代、エクセルがデータ可視化のための基本スキルとされていたのと同様だ」と指摘する。

ただ、ベインのカーミッシュ氏や、マッキンゼーのシニアパートナーで北米事業を率いるエリック・カッチャー氏の見方は、やや異なる。

カッチャー氏は、ダイヤモンド型への移行について「非常に合理的な主張であり、実際にその通りになる可能性もある」としつつ、別のシナリオの方が有力とみる。

約30年前にマッキンゼーに入社した当時はファクス機からコピー機、資料室へと駆け回る日々を送っていた。「当時やっていた仕事は、その時はとても価値があったが、今ではもうそんな仕事はしないだろう」と振り返る。

双方向ドア

コンサルティングの仕事も進化している。カッチャー氏のキャリア初期、マッキンゼーも他のコンサル企業も提言するだけだったが、今では、クライアントの戦略実行まで支援している。

「われわれの業務のかなりの部分は、クライアントに約束した成果、最終利益で測定可能な結果に結び付いている。それには、変革マネジメントや能力の構築が求められる」と同氏は説明する。

企業が直面する課題は複雑化するばかりで、「われわれの人材への需要、稼働率は、ここ数年で見てきた中で最も高い水準にある」とも指摘する。

カッチャー氏によれば、今、若手コンサルタントを削減するのは、一方通行のドアをくぐるようなものだ。「ダイヤモンド型への移行を早まれば、死刑宣告に等しい。立て直すには10年かかる。ピラミッド構造を維持することこそ、私の言う双方向ドアだ」と話す。

仮に判断を誤った場合も、新人の採用ペースを落とすことは可能だ。「1年余計にかかるかもしれないが、対処できる問題だ」と言う。

カーミッシュ氏によると、ベインもAIに先進的なチームで同様の傾向を見いだしている。「若手は不要になったのではなく、従来なら手が回らなかったようなクライアントにとって価値のある別の仕事に取り組めるようになった」と説明する。

具体的には幅広い選択肢の検討や、意思決定の二次的・三次的影響の掘り下げで、「恐らく最も意味があるのは、クライアントと共に変革マネジメントにより多くの時間を費やせることだ」と言う。

他のコンサルティング企業5社は、コメントの要請に応じなかったか、取材に応じるのを控えた。

理想の候補者

ただ、どちらのシナリオもクライアントと最も密接に仕事をするチームの一員であるMBA人材の存続を脅かすような脅威とはみられていないと、ベインおよびマッキンゼーと現職・元ビジネススクールのキャリアアドバイザー5人は口をそろえる。

企業側で理想の候補者像が抜本的に変わっているわけでもなく、判断力、対人スキルに焦点を当てている。

「コンサルティング企業がこれまでに発してきた最も大きなメッセージは、コンサルティングとは信頼されるアドバイザーになることだ」と、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのキャリアサービス担当エグゼクティブディレクター、スティーブン・ピジョン氏は指摘。「ストレスの多い状況下で、チームで協働できる人材を今でも強く求めている」と続ける。

トゥナ氏によれば、コンサルティング企業は、「AIを使いデータを統合して洞察を導き出す方法を理解し、さらにクライアント自らAIで導き出せる情報と自らの提案とを差別化できる候補者を求めている」ことだという。

ベインでは、当初の予想ほどにはAIは採用する人材のタイプを実際には変えていない、とカーミッシュ氏は説明。「AIがわれわれを手助けするのは、全体の作業の1割に過ぎない。診断に至るために必要なあらゆる分析を支援し、解決策を定義する過程でも助けてくれる」と述べる。

「経営チームを解決策で結束させて実行に移すには、依然としてこれまでと同じタイプの人材が必要であり、むしろ高いEQ(心の知能指数)が以前よりも重視される可能性がある」というのが同氏の見立てだ。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:MBAs Seeking Jobs in Consulting Must Be AI Proficient(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.