モルガン・スタンレーのチームがOpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)を自社のオフィスに招いて幹部数人に引き合わせた際、テクノロジー業界以外で「ChatGPT」という言葉を耳にしたことがある者はほとんどいなかった。

瞬く間にブームを引き起こしたChatGPT発表は、これよりまだかなり後のことだ。それでもモルガン・スタンレーは、OpenAIの最初の顧客の1社として速やかに契約を結んだ。この時以来、世界で最も注目される新興企業とも言えるOpenAIから、モルガン・スタンレーは幅広い取引を獲得している。

人工知能(AI)関連企業による巨額の資金調達と投資は、銀行に魅力的な事業機会を提供している。1990年代のようなバブルを警戒する声が高まる中でも、AI業界は投資銀行にとって高額の手数料収入を狙える有望な分野だ。

モルガン・スタンレーは今年、投資銀行全体の手数料収入ランキングでは3位だが、テクノロジー企業の新規株式公開(IPO)では首位に立っている。同行のイノベーションチームは幹部から、社全体の収入拡大につながるような新たな道筋の開拓を託されている。チームは表向き、有望な新興企業を見いだして取引先として契約を結ぶ役割を担うが、実際には投資銀行部門やウェルスマネジメント部門に新興企業と関係を築くための突破口を提供している。

モルガン・スタンレーのウェルスマネジメント部門トップ、ジェド・フィン氏は「われわれはまず関係を構築し、そこからそれを最大限発展させるよう努めている」とインタビューで話した。「ある時点で、資本市場へのアクセスや助言が必要になる。5年や10年、15年にわたって良きパートナーであり続ければ、その恩恵に浴せるだろう」と続けた。

モルガン・スタンレーはアルトマン氏との2022年の会談直後にOpenAIと正式契約を結び、両社は具体的な活用事例について検討を開始した。同年11月のChatGPT公開の数カ月前に当たるその数週間後、両社は最初の活用事例として「金融アドバイザーツール」を着想した。

事情に詳しい関係者によると、両社にはいまや数十の構想があり、モルガン・スタンレーはイーロン・マスク氏のxAIやアンソロピックなど他のAI企業とも協力関係を結んでいるという。

OpenAIとモルガン・スタンレーの関係はそこからさらに発展した。

OpenAIのサム・アルトマンCEO

モルガン・スタンレーはいまや、OpenAI従業員の持ち株プランも処理していると、関係者は述べた。OpenAIが10月に5000億ドルの企業評価額で従業員の持ち株売却を支援する合意を結んだ際、取引はモルガン・スタンレーのプラットフォームで行われた。アルトマン氏を含む主要幹部の資産管理もモルガン・スタンレーは担当していると、非公表の情報だとして匿名を要請した関係者は語った。

モルガン・スタンレーの幹部および広報担当者は、OpenAIやアルトマン氏との具体的な取引関係についてコメントを控えた。OpenAIの代表者もコメントを避けた。

テクノロジー業界との取引獲得競争におけるモルガン・スタンレーの強さはよく知られ、米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズのIPOを獲得するためベテランのディールメーカーが同社の運転手としてアルバイトしていた話はウォール街の伝説となっている。

だが、モルガン・スタンレーとOpenAIの関係は、銀行がシリコンバレーに根を張る、もう一つのやり方を示している。モルガン・スタンレーのイノベーションチームは全世界で50人ほどだが、潜在的なベンダーとして年間1000社との会談をこなす。

会談の多くは成果なく終わるが、一部は長期的で高い利益を生む種になる。

モルガン・スタンレーのマンデル・クロウリー最高顧客責任者は「成長期にある法人組織を運営しているのは極めて洗練された人々で、将来的なIPOを視野に入れている。われわれはそうしたパターンを見抜くことができる」と語った。

テクノロジー企業向け銀行業務の首位争いは常に僅差で、数ポイント、あるいはそれよりもわずかな差の市場シェアで決まることも多い。

テクノロジー企業のIPOでは、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスがこのところほぼ毎年、主幹事で首位の座を競っている。昨年はゴールドマンが首位だったが、今年は今のところモルガン・スタンレーがリードしている。この2行に加え、23年のファースト・リパブリック買収を機にテクノロジー企業との取引強化に投資するJPモルガン・チェースも、この競争に食い込もうとしている。

原題:Morgan Stanley’s OpenAI Ties Show How Bank Reels in Hot Startups(抜粋)

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