(ブルームバーグ):台湾有事を巡り高市早苗首相が日本の立場を変更したと中国が主張していることについて、日本政府は「全く根拠がない」と断じた。その上で、アジアの2大経済国である日中関係の悪化を食い止めるため、さらなる対話を呼びかけた。
中国はこれに先立ち、日本が台湾海峡情勢に武力介入した場合、断固とした自衛措置を取ると警告する書簡を国連に送付した。台湾を巡る日中対立問題で、国際社会の支持を集める狙いがある。
小林麻紀内閣広報官は「書簡については承知している」とした上で、「わが国が立場を変更したという主張は全く根拠がない」と述べた。南アフリカのヨハネスブルクで開催されている20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の合間にブルームバーグ・ニュースのインタビューに英語で応じた。
最大の争点は、高市氏の発言に関する日中両国の受け止め方が根本的に違うことだ。中国側は、高市氏が台湾有事と自衛隊配備の可能性を関連付け、日本が長年維持してきた「戦略的曖昧(あいまい)」の立場から逸脱したとみている。一方、日本側は高市氏が仮定の質問に答えただけで、従来の立場に変わりはないと主張している。
「中国側には発言の趣旨と日本の一貫した立場を繰り返し説明している」と小林氏は述べ、「中国との対話に注力している」と続けた。
だが、今回のG20サミットはその対話の場にはならない見通しだ。中国からは欠席の習近平国家主席に代わり、李強首相が出席。22日に行われた記念撮影では、 高市と李氏はわずか3人を隔てて並んだ。中国側はG20サミットに合わせた日中首相会談の予定はないと述べており、両者が非公式に接触するかが注目されていた。
読売新聞は、日本が議長国として打診していた日中韓3カ国の首脳会談について、中国が拒否したと報道した。今月予定されていた同3カ国の文化相会談も、中国側が中止したと伝えられている。
21日には、日本が再び侵略に踏み出すような行動を取った場合、中国には国連安全保障理事会の承認を得ずに「直接的な軍事行動」を取る権利があると主張した。第2次世界大戦中の「敵国条項」に関する国連憲章の規定を根拠に、在日本中国大使館がSNS「X(旧ツイッター)」に投稿したもので、対日批判のトーンを強めている。
日本政府によると、旧敵国条項については1995年の国連総会において、死文化しているとの認識を示す決議が圧倒的多数の賛成により採択され、中国自身も賛成票を投じた。
また2005年の国連首脳会合では、国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの全加盟国首脳の決意を示す成果文書が採択されており、中国首脳もコンセンサスに加わっているという。
こうした経緯から、日本政府としては国連安保理常任理事国である中国が大国として責任ある言動をとるよう期待したいと述べている。
事態の収束は見通せない。日本への渡航自粛勧告を受けて中国人の間では訪日旅行を取りやめる動きが出ているほか、中国政府は日本産水産物の輸入停止に踏み切った。
高市氏は自身の答弁に反省点があったとして、自衛隊派遣の可能性を想定した具体的なシナリオに言及することは控えるとの考えを示す一方、発言の撤回には否定的だ。
中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、自動車産業に不可欠な鉱物資源の主要供給国でもある。小林氏は「レアアースの輸入において、中国は重要な供給源だ」と認めつつ、日本は中国依存の低減に取り組んできたと述べた。
原題:Japan Blasts China’s ‘Entirely Baseless’ Claims After UN Letter(抜粋)
(敵国条項に関する日本政府の見解を追加して更新します)
--取材協力:Colum Murphy、Jing Li、Antony Sguazzin.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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