この原稿を書いている2025年11月初め頃、日経平均株価が5万円の大台を超える中、「バブルではないのか?」という不安の声が聞こえてきた。何しろ、2025年7月下旬からの約3か月間で日経平均はあっという間に4万円台を通過したため、そのスピードに警戒を抱く人が出てくるのも無理はない。
しかし、逆説的な言い方であるが、バブルを警戒する声が多いということは、まだバブルが発生していない証拠とも考えられる。なぜなら、バブルは人々が警戒している時に発生せず、多くの人が油断して買い始めると発生するから。
日本家計金融資産に占める株式・投資信託の割合は、1980年代後半のバブル時に約28%まで上昇しており、新NISAで投資が増えた直近2025年6月末の約19%と比べても、当時の投資の多さがわかる。

言い換えると、投資割合があまり増えていない現在、バブルを警戒するのは時期尚早と思われる。
株価が急上昇するとバブル不安が高まるのは、過去2度のバブル崩壊によるトラウマが原因と思われる。1990年代の日本バブル崩壊で苦しんだ後、2000年代に入り家計の投資が増え始めると、今度は米国でリーマン・ショックが発生した。約20年間で2度の深刻なバブル崩壊を経験した結果、今でもバブルに怯える日本人は少なくない。
しかし、条件反射のように「株価急上昇=バブル」と決めつけるのは、早計である。なぜなら、株価の決定要因は「実力(企業利益)」と「人気・期待」の両者であり、人気・期待先行で実力以上に株価が急上昇する相場がバブルであるから。

1980 年代後半の日本株式市場を振り返ると、当時は企業利益以上に株価が急上昇する典型的なバブル相場であった。一方、最近数年間の株価上昇は企業利益改善に支えられており、実力に裏打ちされた株高と言える。

もっとも、直近は人気・期待先行(「高市トレード」)で株価が急上昇しているため、株価調整の可能性は否めないが、2024 年8月5日(日経平均▲4,451円)や2025年4月7日(同▲2,644円)の時と同じように、企業利益による株価下支えが期待される。
一方、気掛かりなのは米国株式の方かもしれない。前述のように家計の購入が盛り上がらない中で日本株式が急上昇した背景は、海外投資家の買いであった。
米国株式市場のメイン・シナリオではないものの、万が一、2000年代ITバブル崩壊のような人工知能(AI)バブル崩壊が起こったとしたら、海外投資家の日本株式売りが予想される。
「バブル時に売り、バブル崩壊をやり過ごそう」と考える人もいるが、そのような神業が可能なのは一部の限られたプロだけ。「天災は忘れた頃にやってくる」ように、「バブルも忘れた頃にやってくる」ため、気が付くとバブルに踊らされている人は多く、そもそもバブル発生は多くの人が購入した証拠なのである。
いつ起こるかわからない日米株式市場のバブル崩壊をいつまでも心配するぐらいなら、絶対にバブル崩壊は起こると覚悟を決め、その時に備えて積立・分散投資を始めておく方が、投資を長く続ける近道と思われる。
情報提供、記事執筆:三菱UFJ信託銀行 トラストファイナンシャルプランナー 荒 和英