(ブルームバーグ):台湾問題を巡る高市早苗首相の発言をきっかけとした日中関係悪化の出口が見えない中、日本株市場で小売株から撤退する動きが広がっている。
中国政府が自国民に日本への渡航・留学を控えるよう呼びかけたことで、17日に観光・小売株が急落した。18日はやや持ち直す銘柄も見られたが、投資家は短期的なボラティリティーの高まりを予想している。2012年と23年に尖閣諸島や原子力発電所の処理水放出を巡って起きた日本ブランド不買運動と同様のリスクが懸念されているためだ。
米カールソン・キャピタルのポートフォリオマネジャー、デビッド・ファンドリッチ氏は、潜在的な反日感情の高まりが中国依存度が高い日本ブランドなどに「業績への重大な影響」をもたらす可能性があると指摘。「当面は小売銘柄を避け、中国関連の消費銘柄を注視すべきだ」と述べた。
資生堂や三越伊勢丹ホールディングスの株価は直近2日で12%下落し、ANAホールディングスや日本航空など空運株も続落した。
シティグループ証券の阪上亮太株式ストラテジストらは17日付のリポートで、中国人の訪日客数や消費額が12年以降に急増したことに言及。仮に当時と同等のマグニチュードで訪日数が減少すれば、「日本経済や企業業績への影響は当時とは比べものにならない大きさとなる」とし、「インバウンド関連銘柄へのダメージは避けられない」と指摘した。
緊張がさらに高まり、中国国内で日本製品の不買運動や日系企業の活動縮小などに発展すれば、日本株の下げ幅は拡大しかねない。ブルームバーグのデータで12年当時のTOPIX500指数採用企業のうち中国売上高比率が高い30社を抽出した指数を見ると、尖閣諸島を巡って反日デモが激化した同年9月半ばから約1カ月にわたって軟調に推移し、相場全体を下押しした。
日中関係を巡る先行き不透明感は外国為替市場で円相場にも重しとなる。三菱UFJフィナンシャル・グループのシニア通貨アナリスト、マイケル・ワン氏は、緊張の高まりで「中国が観光分野に加えて企業への輸出規制、レアアース供給網への制限などさらなる措置を講じる可能性」が意識されていると話す。円は18日、対ドルで2月以来の安値を更新した。
もっとも、円安は中国からの観光客を呼び込む可能性が高い。加えて、ツアー客の割合は年々減少しており、政府の注意喚起が個人の判断に与える影響は限定的だという見方もある。
英ウェイバートン・インベストメントマネジメントの株式リサーチヘッド、ステファン・ラインヴァルト氏は、中国人訪日客の減少は「短期的なノイズ」との受け止めだ。日本と中国双方が国家安全保障の観点から当然の主張をしているとみており、足元の株価調整は「課題と言うよりむしろ機会かもしれない」と考えている。
投資家はどの品目が貿易規制の対象になり得るかを注視しており、特に中国が供給する重要鉱物への懸念が強い。日本の自動車産業にとってボトルネックになる可能性があるためだ。
シンガポールの資産運用会社アイファスト・フィナンシャルのリサーチアナリスト、フー・ユー氏は日中間の「緊張が長期化・激化すれば、中国はレアアースなどサプライチェーンの重要部品における支配力を活用する可能性もある」と指摘する。「これは日本の製造業や自動車産業にリスクをもたらす」とした上で、「短期的な変動性の高まりは予想されるが、政治情勢が安定すれば市場は回復する」との見方を示した。
--取材協力:April Ma、ジョン・チェン、アリス・フレンチ.
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