(ブルームバーグ):米金融当局者の間で、インフレ抑制の進展が鈍化または停滞する可能性を警告する声が強まっている。12月9、10両日に予定される次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合での追加利下げの見通しに疑問を投げかけており、中央銀行内の意見の対立が鮮明になっている。
当局者は労働市場の冷え込みをおおむね認めているものの、一段と減速するかどうかで見解が分かれている。物価動向に比較的楽観的な見方がある一方で、現在の金利水準では景気抑制効果が限定的だとし、これ以上の利下げはインフレ抑制の進展を危うくすると警鐘を鳴らす声もある。
こうした意見対立が公になるのは異例であり、経済の現状を読み取る難しさ、そして金融政策の方向性を巡って意見集約を図るパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の苦境を浮き彫りにしている。

FRB内の利下げ慎重派は主に二つの考え方を掲げている。まず、雇用の伸び鈍化は労働需要の深刻な悪化ではなく、移民政策や技術の変化を反映している可能性があると主張。さらに、関税を含むインフレリスクや全体的な消費需要の底堅さにも言及している。
カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は14日、「追加利下げが労働市場の亀裂を修復する効果は限定的だろう。こうした緊張は、テクノロジーや移民政策の構造的変化に起因する可能性が高い」と述べたうえで、「しかしながら、2%の物価目標へのコミットメントが一段と疑問視される中で利下げすれば、インフレに長期的な影響を与える可能性がある」との考えを示した。
ボストン連銀のコリンズ総裁は12日、10月の利下げは労働市場を下支えするための「慎重な」対応だったと評価しながらも、「追加的な金融緩和を行えば、インフレ率を目標に戻す動きが鈍化、あるいは停滞するリスクを伴う」と警告した。
資産運用会社バンガードの米国担当シニアエコノミスト、ジョシュ・ハート氏は、家計や企業がFRBの2%目標達成への決意を疑い始めるリスクは現実的だとし、「いつそうなるかは分からないが、いったん信頼が失われれば深刻な問題になる」と指摘した。

ここ1週間に当局者からタカ派発言が相次いだ中、金融市場では12月利下げの織り込みが急速に後退した。フェデラルファンド(FF)金利先物によると、利下げ確率は10月会合前のほぼ100%から約50%へ低下している。
ただハト派が屈服したわけではない。発言は控えめながら、政策決定権を持つメンバーの多数派は依然として利下げ支持とみられる。
トランプ大統領が最近指名したマイラン理事は、現在の金利は「中立金利」を大きく上回っており、景気抑制が過剰になっていると主張。労働市場への悪影響を避けるため、迅速かつ大幅な利下げを求めている。ウォラー理事やボウマン理事など、インフレよりも雇用への影響を懸念するメンバーもいる。
こうした状況の下、パウエル議長は来年5月に任期満了を迎えるまで、政策を巡る反対票の増加に直面する可能性がある。議長はこれまで、12月の判断を巡って「意見の隔たりが大きい」と認めつつも、異論の存在は議論を深める健全な過程と強調してきた。
元FRB金融政策局長で現在はエール大学経営大学院教授のウィリアム・イングリッシュ氏は「FRBは極めて難しい局面にあり、パウエル議長のかじ取りは一層難しくなる」と指摘した。
原題:Fed’s Hawks Seize Spotlight Making Case Against a December Cut(抜粋)
--取材協力:Enda Curran.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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