(ブルームバーグ):14日の米金融市場ではS&P500種株価指数が小幅続落。ハイテク株に買いが戻ったが、大量の経済データ発表を控えた慎重ムードの中、勢いは失速した。12月の連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、利下げの実現性に不安が広がっている。

米政府機関が再開されたことの安心感もつかの間、連邦準備制度理事会(FRB)当局者から利下げに消極的な見解が相次ぎ、今週の市場はボラティリティーが上昇した。モメンタム重視のトレーダーが好む人工知能(AI)銘柄は、上下に大きく変動。S&P500種は一時1.4%近く下げた後、下げ幅をほぼ埋めたが、採用銘柄のほとんどが値下がりした。来週の決算発表を控えたエヌビディアは上昇した。
株式市場では4月のメルトダウン以降、利下げ見通しが企業業績を押し上げ人工知能(AI)ブームを助長するとの期待で、急激に持ち直してきた。高い株価バリュエーションに目をつむり、上値を追い続けたトレーダーは多い。
大型ハイテク企業の決算は総じて予想通り、あるいはそれ以上だった。しかし借り入れコストの先行きといった見通しは不透明だ。エヌビディアは19日に決算を発表する。オプション市場では発表後の株価が上下いずれの方向にも6.2%動く可能性が織り込まれている。
キャピタル・ドットコムのカイル・ロッダ氏は「(エヌビディアの)決算は市場と人工知能(AI)トレードにとって重大な試練となる。AI関連企業のバリュエーションに対する懸念を和らげる可能性もあれば、むしろ一段と強める可能性もある」と述べた。
来週はウォルマートやターゲットなど実店舗を展開する小売り大手も決算を発表する。個人消費の現状を把握する手がかりとして注目されている。
大手ハイテク株7銘柄で構成するブルームバーグのマグニフィセント・セブン指数は、4日ぶりに上昇。オラクルのデフォルト(債務不履行)から社債を保証するコストは急伸し、2021年以来の大幅上昇。同社による巨額のAI投資に対し、投資家は神経を尖(とが)らせている。

エクスプローシブ・オプションズの創業者ボブ・ラング氏は「株式相場はこの段階で反発するはずだが、最近の相場では押し目買いが裏目に出ている。従って信頼感が戻るまでは緩やかなペースで上昇するかもしれない」と述べた。
今週の市場ではまた、主にヘルスケアと生活必需品セクターへのローテーションが鮮明になり、こうした銘柄は底打ちしたもようだと、マホニー・アセット・マネジメントのケン・マホニー氏は指摘した。
「AI関連やその周辺銘柄に投資している人にとっては、あまりうれしくない展開だ」と述べ、S&P500指数が高値圏にあるにもかかわらず「一部銘柄ではミニ弱気相場のような状況になっている」と話した。
ここ数日、FRB当局者から12月の追加利下げの必要性に懐疑的な見方を示すか、明確に反対する発言が相次いだ。ただし、雇用の弱さを懸念する政策当局者は依然多く、FOMCの結果は不透明だ。
金融市場では、いわゆるインフレタカ派による発言の増加が注目されている。フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む12月の利下げ確率は50%を割り込んだ。10月のFOMC会合前は、12月利下げはほぼ完全に織り込まれていた。
金融政策を左右しかねない経済指標の発表を控え、市場参加者が備えを進めるなか、今週はリスク回避姿勢が強まり、暗号資産(仮想通貨)ビットコインは10月初旬の最高値からの下落をさらに拡大させた。
ビットコインは一時9万5000ドルを割り込んだ。関連ファンドから約9億ドルが引き揚げられた。コインゲッコーのデータによると、10月10日に発生した190億ドル規模の清算で、仮想通貨全体の時価総額から1兆ドル余りが消失。その後も暗号資産市場への圧迫は続いている。
個別企業のニュースとしては、ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)が2026年2月に退任し、後任にジョン・ファーナー氏が就くと同社が発表した。
メルクはインフルエンザ治療薬を開発中のバイオ企業シダラ・セラピューティクスを買収することで合意した。
ブラックストーンはモルガン・スタンレーで辣腕(らつわん)バンカーとして知られたフランク・プティガス氏を欧州事業の要職に起用した。
米国債
米国債相場は軒並み下落。株式市場に買いが入ったことが背景にある。英国債利回りの急上昇も影響した。
6週間に及んだ政府機関の閉鎖が終了したものの、経済統計はまだ発表されていない。この日は先物市場にまとまった買いが入り、国債相場を一時的に押し上げる場面もあったが、具体的な材料は明らかになっていない。発表が遅れている経済データは、利下げ期待の復活につながる可能性があるとの見方が広がっている。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメントのポートフォリオマネジャー、エド・アルフセイニ氏は「市場は労働市場の軟化説を織り込み済みだ。労働市場は弱いが、ひどくはない」と語る。「これから発表されるデータはこの見方を裏付けるか、否定するかのどちらかだろう」と述べた。

米労働統計局(BLS)は政府機関閉鎖の影響で延期されていた9月の雇用統計について、11月20日に公表すると明らかにした。
政府機関の再開を受けて指標発表日程の一部を更新した。また9月の物価調整済み賃金データを11月21日に公表すると述べた。いずれも米東部時間午前8時30分(日本時間午後10時30分)に発表される。FOMCは9月と10月の会合で、インフレ率が目標を上回っているにもかかわらず、雇用の弱さに対応するために政策金利を引き下げている。
FRB当局者からは12月の追加利下げに否定的な発言が相次いでいるが、トレーダーらは労働市場の軟化の方がFOMCを説得する力が大きいとみている。カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は、追加利下げは労働市場を支える効果よりも、高インフレを定着させるリスクの方が大きいとの見方を示した。
ブルームバーグ・マーケッツ・ライブのマクロストラテジスト、アリス・アンドレス氏は「近日中に市場にあふれる大量の経済データを、債券トレーダーが心配していることに疑いの余地はない。ボラティリティーが上昇する可能性があり、国債に買いを入れるのは自然な反応だ」と述べた。
米国債市場では、今後数週間で10年物利回りが4%を下回ると見込んだオプション取引が活発化している。同利回りが最後に4%を割り込んだのは10月29日。FRBのパウエル議長は同日、12月利下げは既定路線ではないと述べた。
利下げが見送られた場合は、リスク資産が売られ、その反応で米国債に逃避の買いが入るシナリオも、トレーダーらは留意している。金利低下の見通しはこの数カ月、株価指数を過去最高値に押し上げてきた。大型ハイテク企業のバリュエーションに対し、投資家やウォール街幹部から警告が出されている。
コロンビア・スレッドニードルのアルフセイニ氏は「利下げが見送られることになれば、リスク市場が巻き戻される。従って(米国債の)ショートサイドには厳しい展開になる」と述べた。
外為
ブルームバーグのドル指数は前日とほぼ変わらず。朝方に下げた後に下げ渋り、株式相場の回復と米国債の伸び悩みに伴いドルも安定した。円は一時153円62銭を付けた後、上昇を失った。
主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、週間ベースでは8月以来となる2週連続安。
デービッド・アダムズ氏らモルガン・スタンレーのストラテジストは「ドル指数のリスクは依然として下落方向に偏っているが、政府機関閉鎖後に発表される経済データで先行きがより明確になるまでは、主要3通貨(G3)に対してドル・ショートを積み増すのは難しい」とリポートで指摘。その上で「ドルに対してリスク通貨のロングは維持するべきだ」と述べた。
JPモルガンのグローバルFXボラティリティー指数は、直近の低水準からの戻しを続け、10月下旬以来の高水準となった。

ドルは対スイス・フランで0.3%下落。リスクオフのムードで安全通貨に買いが入った。米通商代表部(USTR)のグリア代表は、米国はスイスからの輸入品に15%の関税を課すことで、両国が「基本的な」合意に達したと発表した。
原油
原油先物相場は続伸。ウクライナによるロシア主要石油港への攻撃と、イランによるホルムズ海峡付近でのタンカー拿捕(だほ)を受けて買いが膨らんだ。
黒海に面するロシアの主要港ノボロシースクで、大規模なドローン攻撃により石油貯蔵施設と船舶が損傷を受けた。ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、同港からは9月と10月にロシア産原油が日量約70万バレル輸出されており、近隣のターミナルではカザフスタン産原油が日量150万バレル超取り扱われている。

米国防当局者によれば、イラン軍は世界の原油の約2割が通過する要衝ホルムズ海峡を通過しオマーン湾を航行中のタンカーを拿捕した。国営イラン通信によると、この船は3000リットルの燃料を密輸していた。
JTDエナジー・サービス創業者でディレクターのジョン・ドリスコル氏は「一時的な上昇と急激な反落が頻繁に起こるパターンが繰り返されている」と述べた。ウクライナによるロシア施設への攻撃リスクや制裁、地政学的な不透明感に加え、年末にかけた原油需要が重なっており、下落した際の下支え要因になっていると分析した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物12月限は、前日比1.40ドル(2.4%)高の1バレル=60.09ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント1月限は2.2%上げて64.39ドル。
金
金相場は続落。米国史上最長となった政府機関閉鎖を経て経済指標の不透明感が続く中、12月の米利下げ観測が揺らぎ、金売りが続いた。
週を通じて利下げ期待は後退。複数の金融当局者が借り入れコストの引き下げに対し慎重な姿勢を見せたことで、利息を生まない金の魅力が相対的に低下した。
コメルツ銀行の為替・商品調査部門責任者、トゥ・ラン・グエン氏は14日のリポートで、一部のFRB当局者は「労働市場やインフレに関する信頼できるデータが得られない中での追加利下げには慎重な姿勢を示していた」と指摘。「そのため、状況が再び明確になるまでの間、12月の利下げを見送る判断を多数の当局者が下すリスクがある」と述べた。
TDセキュリティーズによると、足元で金がリスク資産と高い相関を示しているのは、拡大する財政赤字から資産を守るため国債や通貨を避ける「ディベースメント取引(通貨価値切り下げトレード)」の巻き戻しが年末に向けて始まっていることを示唆しているという。
同社のシニア商品ストラテジスト、ダン・ガリ氏はリポートで「今回のリスク回避局面では、安全資産として米国債が金を上回るパフォーマンスを示している」と指摘した。
スポット価格はニューヨーク時間午後2時5分現在、前日比75.67ドル(1.8%)安の1オンス=4095.85ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、100.30ドル(2.4%)安の4094.20ドルで引けた。
原題:Stock Bounce Wanes on Fed Angst as Bitcoin Plunges: Markets Wrap(抜粋)
原題:Treasuries Follow UK Bond Selloff With Data Void Set to End(抜粋)
原題:Dollar Steadies as Selling in US Stocks Abates: Inside G-10(抜粋)
原題:Oil Rises as Geopolitical Risks Mount From Russia to Iran(抜粋)
原題:Gold Falls as Bets on Fed Cut Waver With Data Gap Clouding View(抜粋)
原題:BLS Says September US Jobs Report Will Be Released Nov. 20 (2)(抜粋)
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