「作業の担い手」から「価値創出人材」へ

本研究が示す通り、AIは定型的な知的作業を代替し、若手の「作業の担い手」としての役割を急速に陳腐化させつつある。

この構造変化は、裏を返せば、人間がより付加価値の高い領域に集中すべき時代の到来を意味している。

これからのビジネスパーソンに求められるのは、AIを単なる効率化ツールとして使うだけでなく、AIにはできない人間固有の能力を発揮し、新たな価値を創造することだ。

こうした労働構造の変化は、複数の先行研究からも裏づけられている。

筆者がNBERの論文を分析した研究では、AI利用者が週間労働時間の5.4%に相当する時間を節約している一方で、その創出された時間を高付加価値業務に振り向けることで、時間あたりの生産性(時給)が明確に向上していることを示した。

つまり、AIが代替するのは「作業量」であり、人間が高めるべきは「労働の質」なのである。

また、AIエージェントを活用した資料作成プロセスの分析においても、AIが定型的な作業を担う一方で、人間の役割は「顧客の課題の本質を見抜く力」や「それをAIが理解できる言葉に構造化する力」へとシフトしていることを明らかにした。

これらの先行研究は、AI時代において人間が発揮すべき能力の輪郭を具体的に浮かび上がらせている。

では、AI時代の「価値創出人材」とは、具体的にどのような能力をもつ人材なのか。それは、AIとの協働を前提とした、以下の3つの高度な知的スキルに集約される。

第一に、問いを立てる力(課題設定能力)である。

AIは与えられた問いに答えるが、「何を解決すべきか」といった本質的な課題を自ら発見することはできない。

変化の激しい市場において、的確な問いを立て、AIを正しい方向に導く能力こそが、価値創造の出発点となる。

第二に、アイデアを紡ぐ力(創造性・企画力)が求められる。

AIが生成した分析結果や文章は、あくまで思考の「素材」に過ぎない。

その素材をどう解釈し、異分野の知見と結びつけ、誰も思いつかなかったような新しいビジネスモデルや企画へと昇華させるか。

その閃きや構想力は、人間にしか生み出せない価値の源泉である。

第三に、人を動かす力(共感・コミュニケーション能力)である。

どれだけ優れた分析や戦略をAIと共創したとしても、最終的にそれを実行に移し、組織を動かすのは人間である。

人間同士の信頼関係を構築し、多様なメンバーの感情に寄り添いながらチームをまとめ、目標に向かって牽引する。

こうした人間的な魅力やリーダーシップこそが、AI時代において相対的に価値を高めるスキルといえるだろう。

これらの能力こそが、AIを若手の仕事を奪う「敵」ではなく、その可能性を最大限に引き出す「味方」へと変える鍵である。

AIに作業を任せることで生まれた時間を、人間にしかできない価値創造に振り向ける。その先にこそ、AI時代の新しい人材戦略と企業の成長がある。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー 柏村祐)

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