米株式市場で7日終了週に急落はなかった。だが、個人投資家主導の投機熱が7カ月にわたり続いたが、市場の一角では投機的な動きが縮小しつつある。

リスク選好が広がっていた市場全体にひびが入り、過大なバリュエーションや人工知能(AI)の実際の収益効果に対する新たな懸念が重なったことで、米国のハイテク株は4月以来最悪の週となった。

パランティア・テクノロジーズやオラクルといった大型銘柄の下落は、レバレッジ型上場投資信託(ETF)やミーム株取引にも波及した。

最も明確な投機疲れの兆候は暗号資産(仮想通貨)市場に表れている。急騰を続けてきたビットコインなどが急激な巻き戻しに見舞われ、市場心理を冷やした。

ビットコインはたびたび10万ドル近辺まで下落。数週間前に数十億ドル規模のレバレッジ取引が一掃されたショックから立ち直れずにいる中、買い手はほとんど姿を見せなかった。

ウォール街のベテラン投資家は数週間前から、AI絡みの株高は企業業績を大きく超えていると警鐘を鳴らしていた。そうした警戒感は、個人投資家と機関投資家のリスク志向が重なっていた高速取引の領域にも波及している。

上昇を見越したレバレッジ型ETFや仮想通貨関連商品でも、資金流入は途絶えてはいないものの、利益が一方向に出る展開ではなくなっている。

 

ウィリアム・アンド・メアリー大学のピーター・アトウォーター教授(行動経済学)は、投資家心理に最も大きな打撃を与えたのは3日だったと指摘。パランティアが市場予想を上回る決算を発表したにもかかわらず、翌日の4日に株価が約8%下落したためだ。

同教授によると、数百倍の株価収益率(PER)で取引されている同社は、ハイパースケーラー(大規模AI事業者)型のテクノロジー企業やミーム株投資心理の両方を象徴する存在だという。

パランティアは「AIや暗号資産と同じ領域にある」と同教授は述べ、「テーマとして、これらの分野はすべて強い自信という共通の相関を持っている。いずれも人気銘柄で、これは群衆心理の現象だ」との見方を示した。

市場の懸念

下落は一様ではない。しかし数カ月ぶりに、これまでほぼ足並みをそろえていた投機的な上昇の勢いが分断されている。

株式市場では、一部の高リスク取引が崩れ始めた。メタ・プラットフォームズ関連のETFは週間ベースで8.5%下落し、パランティア関連のETFも22%値を下げた。

レバレッジをかけた量子関連銘柄やスーパー・マイクロ・コンピューターの取引も崩れた。AIインフラ関連の投資計画を巡る懸念が浮上する中、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大手ハイテク銘柄も下落。

対話型生成AI「ChatGPT」を手がけるOpenAIのサラ・フライア最高財務責任者(CFO)が、米政府が「資金調達を可能にする保証を補強する」可能性に言及したことも、市場心理をさらに冷やした。

アトウォーター教授は「人々のAIに対する発言には明確な弱気バイアスが出ている」とし、「もし市場心理が悪化すれば、懐疑論が高まり、監視の目も厳しくなるだろう。そうした行動が最終的に、市場の反発余地を制限することにつながる」と説明した。

 

7日終了週は、ミーム株と赤字のハイテク企業、新規株式公開(IPO)銘柄を追うそれぞれの指数はいずれも値下がり。最近上場した銘柄に焦点を絞ったETFは5%下落し、9月以来の大幅安となった。

イノベーション関連の赤字企業を集めたバスケットも7%下落し、8月以来の下げ幅を記録した。

デジタル資産関連ETFからは1週間で7億ドル(約1070億円)超の資金が流出。うち約6億ドルはブラックロックのビットコインファンドから、3億7000万ドルはイーサのファンドから引き出された。

ソラナやドージコインに連動する商品も、最近の上場以来2桁の下落率となっている。新たに設定されたミーム株ETFも、1カ月前の投入来で20%以上下落している。

タイミング

インテグレーテッド・パートナーズのスティーブン・コラノ最高投資責任者(CIO)は「投資家が神経質になっている」と述べた。「4月初め以降に大きく上昇したAI関連やその周辺分野で利益確定が進んでおり、それが暗号資産に圧力をかけているようだ」という。

こうした動きはミーム株の領域を超えて重要な意味を持つ可能性がある。予測市場やトークン化資産など個人投資家のリスク志向は、関税や労働市場の不安が続く中でも2025年の株式市場全体の反発を支えてきた。

だが今、勝ち組と負け組の差が拡大し、リスクの高い取引で資金が流出する中、周縁部で流動性が細っている可能性がある。

もっとも、これは市場全体の急落を示すものではない。S&P500種株価指数は直近高値からわずか2%の下げにとどまっている。ただし、あらゆる資産が上がるというストーリーに慣れた投資家にとって、7日終了週は違った意味を持つ。

 

再びタイミングが重要になりつつあり、潮流がすべてを押し上げるような局面ではなくなっている。レバレッジの効果は上昇にも下落にも働く。

過去1カ月でビットコインは15%下落した。ウォール街では、ボラティリティーの高いハイテク株や個人主導の流動性を先行して示す指標として、ビットコインを位置付ける見方が広がっている。

シティグループによると、最近では長期保有の大口投資家、いわゆる「クジラ」の数が減少しているという。こうした投資家層はこれまで、相場急落時でも保有を続ける傾向があった。

「ビットコインは先を読む嗅覚を持っている」とブルームバーグ・インテリジェンスのエリック・バルチュナス氏は言う。

「常に取引されているため、価格発見の手段として機能しやすい。24時間営業のセブン-イレブンのようなもので、ビットコインを取引する人々は常にオンラインで市場に張り付いている」と話した。

原題:Wall Street Thrill Ride Derailed as Doubts Seize AI, Crypto Bets(抜粋)

--取材協力:Sidhartha Shukla.

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