ChatGPTショックと「不発」のアップル・インテリジェンス

焦るAppleは、GoogleからAI担当トップの一人、ジョン・ジャナンドレア氏を引き抜き、Siriを含むAIプロジェクト部門を統括させました。

最大の競合から貴重な人材を引き抜いたことで、誰もがAppleのAIが全勢力を注いで進化することを期待しました。

しかし、軽量で高速なSiriを開発しようとしたプロジェクトは、結局、中止に追い込まれます。

その間にも、競合たちは生成AIの基盤となる「大規模言語モデル(LLM)」の開発を急ピッチで進めていました。

そして2022年末、世界が変わります。ChatGPTの登場です。

OpenAIが公開したこのAI言語ツールは、まるで人と話しているかのような自然な対話能力で、世界中の人々を魅了すると同時に恐怖させました。

この「ChatGPTショック」は、Appleの経営陣にも激震を走らせます。

ソフトウェア部門トップのクレイグ・フェデリギ氏は、これが革命的な技術であると即座に認識。

OpenAIやAnthropic(アンソロピック)といった最先端企業の門を叩き、大規模言語モデルの集中講義を受け、自社のソフトウェア部門にシステム全体を網羅するAIの開発を指示しました。

その答えとして2024年6月の開発者会議(WWDC)で発表されたのが、「アップル・インテリジェンス」です。

文章の要約、書き直し、テキスト入力だけで絵文字が作れる「ジェン文字」、通知の優先順位付け――。

Appleはこれを「みんなのためのAI」と呼び、かつてMacintoshを発表した時の「みんなのためのコンピュータ」という言葉を彷彿とさせました。
しかし、この鳴り物入りの発表は、最初から不発でした。

同年9月に「アップル・インテリジェンスのために一から作られた」と宣伝されたiPhone 16が発売されても、肝心の機能は1ヶ月半後まで提供されませんでした。

そして最大の問題は、冒頭の広告で披露された、AIを搭載した「本当に賢いSiri」が、未だに搭載されていないことです。

アップル・インテリジェンスは、同社の歴史の中でも最大級の失敗の一つとなり、投資家もこの欠陥に注目。

Appleの株価がハイテク企業上位7社、通称「マグニフィセント・セブン」の中で低迷した一因も、このAIの遅れにあるとされています。