(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁は30日、次回12月の金融政策決定会合に向けて実質金利の低下による日本経済への影響を精査し、「適切な政策判断をするつもりだ」と述べた。会合後の会見で語った。
総裁は、経済・物価が日銀の見通しに沿って推移していることを踏まえ、物価目標が実現する確度が「少しずつ高まってきている」と表明。6会合連続で政策金利を据え置いていることで、実質金利の低下に伴う金融緩和度合いが強まっている可能性があり、日本経済への影響を改めて精査すると語った。

利上げを見送ってきた理由に関しては、「米関税政策やその影響を巡る不確実性を非常に重視してきた」と説明。日本企業の収益に下押し圧力がかかる下でも、積極的な賃金設定行動が途切れないかどうかを「もう少し確認したい」との見解を示した。
30日の会合で日銀は、政策金利を0.5%程度に据え置くことを7対2の賛成多数で決めた。政策維持は6会合連続。市場の早期利上げ観測が強まる中、注目された植田総裁の会見では利上げ時期を示唆するような発言はなかったが、早期利上げの可能性に含みを残した。
円安進行
植田総裁の発言を受けて、外国為替市場の円相場は一時対ドルで153円89銭と2月以来の水準まで下落幅を拡大した。円安進行の理由として、あおぞら銀行の諸我晃チーフマーケットストラテジストは、総裁が会見で12月会合での利上げを「ほのめかすことがなかった」ことを挙げた。
12月の会合は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の後に日銀が開く。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は10月のFOMC会合後、12月の追加利下げは既定路線ではなく、「程遠い」と語った。日米の政策次第では一段と円安が進み、物価の上振れにつながる可能性がある。
植田総裁は為替の「短期的な動向にはコメントしない」と指摘。物価への影響については、「為替変動のもとになった要因も含め、経済・物価への影響を精査していきたい」と述べるにとどめた。

政権との距離感
利上げを見送った理由について、市場では金融緩和を重視する高市早苗政権への配慮との見方もある。総裁は「政府と連絡を密にして十分な意思疎通を図る」必要性を改めて指摘。12月の予算編成時期であっても、政府の政策を織り込みつつ、金融政策を変更することは十分可能と語った。
物価上昇への政策対応が遅れるビハインド・ザ・カーブに陥る懸念が高まっているとは認識していないとも言明。金融緩和度合いの調整を判断するには、「もう少しデータを確認したい」と繰り返した。米関税の影響については、来年にかけて「もう少し大きなマイナスの影響が出る」可能性を指摘した。
日銀が政策判断で重視する賃上げ動向では、連合が26年の春闘で5%以上の賃上げを目指す方針を示している。同じ目標を掲げた24年と25年は、いずれも5%台の賃上げを達成。賃上げの持続性が引き続き焦点となる。
植田総裁は、来年の春闘に関して材料不足としつつ、「今春闘の結果のプラスマイナスアルファ」とみている。春闘の妥結状況を知るまで待ちたいということではなく、「初動のモメンタムがどうなるか、もう少し情報を集めたい」と語った。
(植田総裁の発言の詳細を追加して更新しました)
--取材協力:氏兼敬子、横山恵利香、山中英典.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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