米ニューヨーク州ウェストナイアックのショッピングモール「パリセーズ・センター」向けのローン債権を、不良債権投資ファンドが取得した。

これにより、このローンを唯一の裏付けとしていた単一資産・単一借り手(SASB)型の商業用不動産担保証券(CMBS)保有者に損失が発生し、AAA格付け部分の保有者も損失を被った。

最高格付けのCMBSの投資家が損失を被ったのは金融危機以降2例目。

市場関係者の間では、老朽化した商業施設やオフィス物件を担保とするSASB型CMBSの保有者に、今後さらに損失が及ぶ可能性があるとの警戒が広がっている。

オルタナティブ資産運用会社ブラック・ダイアモンド・キャピタル・マネジメントはまず、パリセーズ・センター向けローンを裏付けとするCMBSの最上位トランシェの70%超を取得。この立場を生かして裏付けのローンを割引価格で買い取り、CMBSの清算につながった。裁判資料などで分かった。

この取引により、ブラック・ダイアモンドは大型モールの支配権を握ることになった。一方、CMBS保有者は約2億3100万ドル(約350億円)の損失が確定。うちAAAトランシェの損失は7200万ドルとなった。

ブラック・ダイアモンドが一連の取引で支払った金額やモール再建の方針は明らかになっていない。1998年開業のこの施設は、近年の店舗閉鎖や来店客数の減少に苦しんでいる。

ハイイールド債やディストレスト債などに投資するブラック・ダイアモンドはコメント要請に応じなかった。

通常、SASB型CMBSの裏付けローンがデフォルト状態になると、CMBS保有者のために不良債権を処理する「スペシャルサービサー」に債権が移管される。

CMBSの有力所有者となったブラック・ダイアモンドは、ロンドンを本拠とするマウント・ストリートを新たなスペシャルサービサーとして提案し、マウント・ストリートは4月中旬に正式に任命された。

ブラック・ダイアモンドは9月までに、CMBSの裏付けローンを1億7000万ドルで購入する契約をマウント・ストリートと締結。ローン売却によりCMBSが清算され、AAAトランシェの保有者は額面1ドルあたり70セントを回収したが、下位トランシェの投資家は全損となった。

現在ブラック・ダイアモンドはモールに対する抵当権を保有し、物件そのものの差し押さえに動く構えを見せている。

一部の債権者は、ローン売却プロセスが短期間で透明性を欠いていたとして疑義を呈している。CMBS保有者向け報告によると、マウント・ストリートはこのローンに対する入札を3件しか受けず、広範な競売を行わなかった。

バンク・オブ・アメリカのストラテジスト、アラン・トッド氏によれば、最近の類似の案件では500社超の買い手候補に打診し、100件以上の秘密保持契約を締結したという。マウント・ストリートはコメント要請に応じなかった。

パリセーズ・センターはかつて米国でも有数の大型モールとしてにぎわっていたが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以前から来店客数の減少が続いていた。新型コロナのロックダウンとネット通販の普及が追い打ちとなり、多額の債務に苦しむ構図となった。

市場関係者の間では、パリセーズ・センターの例は序章に過ぎないとの見方もある。バークレイズのストラテジストは昨年、少なくとも4件のショッピングモール担保証券で、最高格付けトランシェの投資家にも損失が及ぶ可能性を警告していた。

原題:AAA Bonds Hit Hard as Distressed Fund Seizes Control of NY Mall(抜粋)

--取材協力:David Scheer.

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