日本初の女性首相となった高市早苗氏だが、注目すべきは性別よりも、ヘビーメタルのビートに合わせ激しく頭を振る「ヘッドバンギング」を政治の世界に持ち込んだことかもしれない。

この2週間、日本政界はまるでジェットコースターのような展開を見せた。高市氏は自民党総裁選で予想外の勝利を収めたが、公明党が長年続けてきた自民党との連立を解消。

これを受け、高市氏は一時、就任を目前にしながら「幻の首相」リスト入りするとの観測も流れた。しかし21日、与党再編の激動を経て、ついに歴史を塗り替えた。

高市氏のよく知られている特徴の一つが、ヘビメタ好きだ。かつてバンドでドラムを担当した経験を持ち、アイアン・メイデンやジューダス・プリーストの楽曲がストレス解消になると語ってきた。

この10日間ほど、公明党との決裂や、野党統一の首相候補構想など、試練続きだったが、最終的には大阪を地盤とする日本維新の会の支持を取り付ける「ボリューム最大級」の逆転劇を演じた。

維新の閣外協力を取り付けたことで、高市氏は師である故・安倍晋三元首相の政治的遺産を引き継ぐ形となった。維新は衆議院で公明党を上回る議席を持ち、自民党は少数与党の時代を終える可能性が高まった。

法案可決のために必要な賛成票も、わずか数人分にまで縮まる見通しだ。理念的にも維新は高市氏が率いる自民党に近く、旧来の連立維持に固執すれば首相の座を危うくしかねなかった。高市氏は、引き分け狙いの静かな政治をする気はなさそうだ。

リバプールFCの監督だったユルゲン・クロップ氏が、自らの激しいサッカースタイルを「ヘビーメタルフットボール」と呼んだように、今の日本では「ヘビーメタル政治」が展開されているのかもしれない。リスクを恐れず、既成概念を捨て、極限のプレッシャーの中で闘う姿勢だ。

同盟国の米国が関税を課し、地域安全保障の慣例を軽んじる時代において、日本にはこうした政治エネルギーが求められている。ただし、これが続くかどうかは未知数だ。

日本の歴代首相の多くは期待を裏切ってきた。高市政権が順風満帆と思うなら、ジューダス・プリーストが、おまえの考えは間違っていると歌う「You’ve Got Another Thing Comin’」が聞こえてきそうだ。

少なくとも市場は盛り上がっている。高市氏の財政出動に前向きな姿勢が伝わると、株式市場は活気づき、21日の日経平均株価は一時4万9945円95銭まで上昇し、史上初の5万円台に迫った。

自民党立て直し

高市氏の首相就任は、性別の話題を抜きにしても、灰色のスーツを着た無表情な男性というしばらく続いていた日本のリーダー像を一変させる。

前任の石破茂氏は首相就任そのものが、最終目的だった印象が強かったが、高市氏には日本の国際的地位に関する明確な信念と野心がある。

筆者も含め多くの人が高市氏は政治的な柔軟性に欠けるのではと危惧していたが、同氏は最近、そうした懸念を和らげる動きも見せている。今後長く政権を続けるためには、極端な傾向や一部支持層を抑えつつ、現実的かつ大胆な政策運営が鍵となる。

首相として初の記者会見は上々の滑り出しとなった。高市氏は論争を招く話題を避け、有権者の最大の関心事である物価高への対応を「最優先事項」とする考えを示し、「決断と前進の内閣」を率いていくと表明した。

維新との連携は、短期的には自民党にとって有益かもしれない。しかし、2022年の安倍氏殺害や派閥解体などの出来事に続く公明党との25年に及ぶ連立解消は、政界の不安定化を加速させる恐れもある。公明党は選挙で集票力を発揮したが、維新にはそうした全国的な動員力はない。

維新は内閣入りこそしないものの、議会改革や社会保障制度の見直し、さらに大阪を副首都とする構想を推進するなど、影響力を強めようとしている。これは実質的に、東京への税収集中を是正する狙いがある。

自公の連立解消は、長年連れ添った老夫婦の円満離婚と言えるかもしれない。一方で自維連立を巡っては、「成田離婚」のように新婚旅行から帰国早々に破綻する可能性も指摘される。

そうした事態を回避するためには、高市氏が自民党を再び有権者に受け入れられる存在に立て直す必要がある。

現衆議院議員の任期は28年10月までだが、総選挙が前倒しされる可能性もある。それまでに、インフレや移民、党内の腐敗といった国民の懸念に真摯(しんし)に応える政策を示すことが求められる。

アイアン・メイデンの曲に例えれば、高市氏の手札は今、エースパイロットのように闘えと鼓舞する「Aces High」だ。しかし、自民党の再生に失敗すれば、高市政権は「Wasted Years」、つまり失われた日々として記憶されるだろう。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan’s New Iron Lady Plays Heavy-Metal Politics: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.net

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