衆参両院は21日の本会議で、自民党の高市早苗総裁を第104代首相に指名した。皇居での親任式を経た後、高市氏は女性では憲政史上初めて首相に就任する。午後10時に記者会見し、政権運営の方針を表明する。

高市内閣は日本維新の会との新たな連立政権となるが、維新は閣僚を出さない「閣外協力」で参加する。公明党の離脱で危ぶまれていた高市氏の政権運営は一定程度、安定基盤を確保する。急務となっている物価高対策の策定や来週に見込まれるトランプ米大統領の来日などの課題が山積しており、高市氏の手腕が早速、問われる。

経済閣僚では財務相に女性で初めて片山さつき元地方創生担当相、成長戦略兼経済財政担当相に自民党内で積極財政派の城内実経済安全保障担当相を充てる。片山氏は財務官僚出身。城内氏は岸田文雄政権時代の2023年、自身が顧問の議員連盟で「カレンダーベースの基礎的財政収支(PB)の凍結」を求める提言をまとめた。

衆院本会議で首相に指名された自民党の高市早苗総裁

内閣の要となる官房長官に木原稔前防衛相を起用。自民党総裁選を争った茂木敏充元幹事長を外相、小泉進次郎農相を防衛相、林芳正官房長官を総務相に充て挙党体制構築に務めた。さらに赤沢亮正経済再生担当相を経済産業相とする。維新からは遠藤敬国対委員長を連立合意政策担当の首相補佐官として迎えた。

衆院本会議の首相指名選挙で高市氏は過半数の237票を得て1回目の投票で当選した。自民、維新の会派は合わせて231議席のため、6票上乗せした形だ。参院では1回目で過半数に届かず、決選投票で高市氏が立憲民主党の野田佳彦代表を上回った。

高市氏は21日午前の両院議員総会で、「異次元の柔軟性を持って、それでも国家国民のためになることであれば、前に進めていく」と語っていた。維新の藤田文武共同代表は記者会見で、「高市政権を長期安定政権にすることが国難を突破し、日本列島を強く豊かにし、自立する国家としての歩みを進めることにつながる」と述べた。

市場の反応

21日の東京市場では株式が上昇、日経平均株価は連日で史上最高値を更新した。今夜発足する「高市内閣」による政策期待から買い注文が先行。初の5万円台に一時接近したが、午後は売りが膨らみ、高市氏が首相に選出された後に下落する場面もあった。

政局安定を好感して債券は上昇(金利は低下)している。財務省出身の片山氏の財務相起用が報じられたことで財政拡張懸念もやや後退した。円相場は対ドルで151円半ばに下落している。

大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当は21日付リポートで高市氏について、デマンドプル(需要主導)型インフレを志向しているとして「拡張的な財政政策と緩和的な金融政策で株高になりやすい」と指摘した。需要不足は財政投資や大阪副首都構想で埋めていくことが想定されるとしている。

補正予算

新政権は臨時国会で物価高対策などを盛り込んだ今年度補正予算案を提出する予定だ。「責任ある積極財政」を掲げる高市氏の経済財政運営にとって試金石となる。

自民、維新の連立政権合意では、電気ガス料金補助をはじめとする物価高対策を早急にまとめる方針を掲げた。ガソリン税の暫定税率廃止法案を臨時国会中に成立させるとする一方、参院選で自民が掲げた一律給付は「行わない」と明記した。

自民の鈴木俊一幹事長は21日、NHKの番組に出演し、「経済、とりわけ足元の物価高騰対策にまず第一に取り組んでいきたい」と述べた。

30日に金融政策決定会合を行う日本銀行との関係の在り方も注目される。高市氏は総裁就任後に出演したテレビ東京の番組で、金融政策の手段は日銀が決めるとも指摘しつつ、政府の経済政策と日銀の対応を「しっかり整合させていくということが必要だ」とも述べた。

外交安全保障

外交日程もめじろ押しだ。来週には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などの国際会議が開かれる。

共同通信が28日開催で調整と報じている日米首脳会談では石破茂政権が合意した5500億ドル(約83兆円)規模の対米投資の扱いや防衛費の増額なども議題にあがる可能性がある。自民、維新の政権合意では国家安全保障戦略など安保関連の3文書について前倒しで改定する方針を明記した。

 

(閣僚名簿発表を受け、更新しました)

--取材協力:横山恵利香、山中英典、長谷川敏郎、日高正裕.

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