安全資産への典型的な逃避買いが、動意に乏しい米国債市場を呼び覚まし、指標利回りを数カ月ぶりの低水準へ押し下げた。

米政府機関の閉鎖で雇用やインフレに関する主要な統計発表が遅れる状況にあって、米地方銀行の与信リスクへの不安が広がり、数日間ほとんど利回りに動きのなかった米国債市場が先週、急変に見舞われた。銀行株の指数が米関税を巡る4月の市場混乱以来最大の下げを記録したことが背景にある。

動揺した投資家が安全資産の米国債に殺到する中、金融政策の動向に敏感な2年債利回りは3.4%を下回り、2022年以来の低水準となった。10年債利回りも今年4月以来最も深く4%を割り込んだ。米中貿易摩擦の再燃を受けて前週に一段と大きな相場上昇(利回りは低下)が生じたのに続き、10月としては2度目の逃避買いとなった。

雇用情勢の悪化を示す兆しを受け、10月28、29両日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合での0.25ポイント利下げが既定路線との見方が広がり、株式やクレジット市場の割高感を警戒する投資家は、安全策として10年債の4%利回りを確保しようとしている。

JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「米国債はここ1週間、優れたリスク回避ヘッジとして機能している」と指摘。信用不安や貿易に関する懸念が強まれば、「金利は一段と低下する可能性がある」と述べた。その上で、同社は5-10年債に投資しており、それにより「好ましいと考えるクレジット資産を保有し続ける安心感が得られる」と説明した。

主要国の多額の借り入れ需要を背景に、世界的な「ディベースメント取引(通貨価値切り下げトレード)」の懸念が強まり、金相場が1オンス=4000ドル超の過去最高値を更新する状況にあっても、30年債相場は上昇した。

米政策金利見通し

今後の米国債の動きは、連邦準備制度が今後1年程度の期間にどの程度まで利下げを進めるかについてトレーダーの見通しに大きく左右される。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は14日の講演で、雇用の伸びが鈍化していると指摘するとともに、さらに弱まる可能性があるとの認識を示した。

米金融当局は9月に主要政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25ポイント引き下げて4-4.25%とし、緩和サイクルを再開した。今回のサイクルで最終到達点とされる「ターミナルレート」を示す市場の代替的指標の一つは、今月に入って直近の下限である3%を割り込んでいる。

10月29日以降については、12月にさらに0.25ポイントの追加利下げが織り込まれており、26年半ばまでにあと2回の利下げの可能性が見込まれている。

長期債の発行を控える動き拡大

今月の動きは、ポートフォリオの安定装置として、危機時における米国債の伝統的な役割をあらためて示す形となった。これはトランプ大統領が4月に関税措置を打ち出し、市場が混乱した際とは対照的だ。当時は、世界の投資家が米国債を敬遠するとの懸念が広がり、株式やドルとともに米国債が下落した局面もあった。

今回の急速な債券相場上昇は、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻で2年債利回りが1ポイント余り押し下げられることになった23年3月をほうふつとさせる。

10年債利回りが4%を下回ったのは、4月以降わずか数回しかない。17日には一時3.93%まで低下し、4月7日以来の低水準となった。その後、トランプ氏が対中姿勢を和らげ、地方銀行の決算発表で信用不安が後退したことを受けて4%に戻した。

アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディング・戦略責任者、グレゴリー・ファラネロ氏は10年債利回りについて、「4%を下回る余地がある」としつつも、「そこに至るには現状からさらに大幅な悪化が必要だ」と語った。

ブルームバーグのアリス・アンドレス氏は、「政府閉鎖や信用市場の動向、関税などの不確定要因が明らかになるまでは、10年債利回りが4%から大きく離れる可能性は小さい」との見方を示した。

トレーダーは、10年債利回りが4%を大きく下回る急低下に備えるため、オプションを活用している。利回りが一段と下がればヘッジの動きが加速し、相場上昇に一段と拍車がかかる可能性がある。こうした展開となれば、米国債市場は20年以来で最も好調な年になる見通しだ。ブルームバーグ米国債指数は16日時点で年初来6.6%上昇している。

モルガン・スタンレーのマシュー・ホーンバック氏率いる金利ストラテジストは、10年債利回りの一段の低下余地があるとみている。同社は今月のリポートで「4%を上回る10年債利回りには別れを告げるべきだ」とし、政府閉鎖が長期化すればするほど懸念が強まる可能性を指摘した。

今週は重要な政府統計の発表が1件予定されている。15日に発表予定だった9月の消費者物価指数(CPI)は24日に発表される。

モルガン・スタンレーのホーンバック氏は電子メールで、今回のCPI発表内容への懸念により、当面は「10年債利回りが4%を大きく下回るのことが妨げられる可能性がある」と話した。

エコノミスト予想では、9月のCPI総合指数は前年同月比3.1%の上昇が見込まれている。

原題:Treasuries Rally Drives Home Haven Role as Credit Worries Swirl(抜粋)

--取材協力:Edward Bolingbroke.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.