(ブルームバーグ):自民、公明両党の協力関係が1999年の連立政権発足以来、野党時代も含めて最大の危機にある。仮に連立が解消されれば政界は波乱含みの展開となる。想定される政局のシナリオと市場の反応について検証した。
自民の高市早苗総裁と公明の斉藤鉄夫代表は10日午後、連立政権存続に向けた協議を再度行う。7日の協議では「政治とカネ」の問題への対応を巡る溝が埋まらなかった。斉藤氏は連立離脱の可能性に言及するが、党内には慎重な判断を求める声もあり、情勢は流動的だ。
公明は9日夜の党会合で、連立維持の是非について10日中に結論を得る前提で、斉藤代表と西田実仁幹事長に判断を一任した。政治のカネの問題について自民からの回答を得た上で判断する。赤羽一嘉副代表が記者会見で説明した。

自公連立維持のシナリオ
オールニッポン・アセットマネジメントの森田長太郎チーフストラテジストは現在の自公連立が維持される可能性は高いとみている。
実際、公明の斉藤氏は当初、政治とカネ、歴史認識と靖国問題、外国人政策を巡る問題に関する懸念を伝えていたが、7日の協議では政治とカネ以外の問題については共通認識を得た。
10日の自民との協議では、公明が求める企業・団体献金の規制強化などについて納得できる回答があれば公明が連立にとどまるとみられる。党内には連立離脱の問題は慎重に決断すべきだとの意見もある。
自公だけでは衆院過半数に足りないが、野党が候補者を一本化しない限り、決選投票では高市氏が首相に選出される。その後は石破茂政権と同様、個別政策ごとの野党と協議を進めつつ、連立拡大の機会をうかがうことになる。
森田氏は、所得税の発生する「年収の壁」引き上げなど国民民主党が要求した減税策を高市氏が総裁選公約で掲げていた点に注目している。政策の実現を通じて同党の協力を得るため、新政権は財政拡張的となるとし、債券の売り材料となると分析した。
一方、野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、自公連立なら現状維持にすぎないと指摘。市場への追加的な影響はさほど強くなく、ほぼ中立的とした。

自公に国民民主などが加わるシナリオ
高市総裁は当初、自公を基本に一部野党を加えた新たな枠組みで首相指名選挙に臨むシナリオを描いていた。ただ、公明との連立協議が難航したことで他党との交渉は進んでいない。自公の協議がまとまっても再来週の召集が想定される臨時国会前の枠組み拡大合意へのハードルは上がっている。
第1候補と目されているのは経済政策などで共通点の多い国民民主だが、玉木雄一郎代表は「高市体制にどう向き合うのかというのは公明がどうするかを決めて、それを踏まえてということになる」と述べ、与党の状況を見守る姿勢だ。
仮に自公が連立政権合意を確認した場合でも、当面は政策協議を通じてガソリン暫定税率の廃止や「年収の壁」引き上げなどが実現するか見極める可能性が高い。国民を結党時から支援する連合は自民との連立に否定的で、強引に進めれば党分裂につながりかねない。
インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、国民が連立入りすれば年収の壁の178万円への引き上げが行われ、財政赤字拡大の不透明感から、長期・超長期金利には上昇圧力がかかると分析。財政への懸念も強まり、為替は円安に振れやすくなる一方、日本株にはポジティブだとした。
野村証券の後藤氏も自公国連立となれば政権は現在よりもリフレーション志向となり、株高・債券売り・円安の「高市トレード」が続く可能性が高いとしている。
一方、自民総裁選で小泉進次郎農相が当選した場合の有力な連携相手とされていた日本維新の会は憲法改正や外交安全保障政策でも高市氏の主張に近い部分も多い。ただ、維新と対立してきた自民大阪府連などが連立入りに反発する可能性がある。大阪の複数の小選挙区で維新と議席を争った公明も慎重姿勢だ。
自民単独政権のシナリオ
自公連立が崩壊した場合でも、首相指名選挙で自民会派の衆院議席196を上回る勢力が一致しなければ高市氏が首相に選出される。
衆参で過半数割れしたままの「自民単独政権」だが、衆参共に大幅に過半数割れした状況となり、法案成立のための多数派工作は複雑化する。
自民は公明、維新や国民民主などに協力を求めることになるが、交渉に失敗し、政権運営に行き詰まる可能性がある。
衆院解散で事態打開を図る方法もあるが、内閣支持率が低迷すると自民党内での求心力が低下。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、成立し、高市氏が衆院解散か内閣総辞職を迫られる場面も想定される。
野村証券の後藤氏は自民単独では政権は不安定化し、高市氏は政策を実質的に何も決定できず、最初の反応としては株安など「高市トレード」の巻き戻しが発生する可能性を指摘する。
インベスコAMの木下氏は政策遂行の不透明感が高まり、「日本株はややマイナス、財政赤字は想定よりも増えないので長期金利はやや低下、為替はやや円高」に触れると分析した。
一方、オールニッポンAMの森田氏は自公が完全に選挙協力をなくすことはないため、政策も公明や一部野党の協力を得て実現を目指す形となり、「現実的な政策は今とあまり変わらない。債券買い材料ではないが、それほど売られることにならない」との見方を示した。
野党で新連立のシナリオ
自公が連立を解消した場合、立憲民主党、維新、国民の3党が一致した候補に投票し、高市氏とは別の候補者が首相に選出するシナリオを模索する動きもあるが、実現性は低い。
立民の安住淳幹事長は維新や国民の幹事長と相次いで会談。統一候補は「野田代表にこだわらない」との意向を両党に伝えた。ただ、国民の榛葉賀津也幹事長は立民とは首相指名選挙での連携に否定的な考えを記者団に示している。
野村証券の後藤氏は野党統一候補の場合は玉木氏らが首相となる可能性が想定されるとみるが、財政政策に関する見解が立民と国民で大きく異なるため、政権の持続可能性は不透明だとの認識を示す。株売りが発生する可能性が高く、不安定性への懸念が市場で優勢となれば円や債券市場でもネガティブな反応が出るとみている。
--取材協力:山中英典、グラス美亜、堤健太郎、照喜納明美、梅川崇.
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