新型コロナウイルス禍のさなかに最も需要が高かった住宅の設備と言えば、スタイリッシュなホームオフィスだった。通勤は過去のものとなり在宅勤務が未来の形だとするニュースが相次ぎ、自宅の庭に小屋を建てて仮設オフィスにする人もいた。

しかし、未来の形は長続きしなかった。5年後の現在、米政府からウォール街の銀行に至るまで出社が要請され、JPモルガン・チェースのように週5日出社を求める企業も出てきた。

オフィス回帰が進む中、住宅所有者は在宅勤務スペ-スの新たな使い道を模索。ピラティススタジオやゴルフシミュレーター室、シガーラウンジ、子どもの遊び場などに改装する例が増えている。

英不動産コンサルティング会社バイイング・ソリューションのパートナーを務めるマーク・ローソン氏は、「ロックダウン中に庭に建てたオフィスをティーンエージャー向けのパーティールームに作り替えた」と話す。

住宅を顧客に案内する仕事柄、設計スタイルに詳しいローソン氏は、自身も大きな流れの一部だと感じている。最近は急ごしらえのホームオフィスが「趣味の部屋」に変わるケースが目立つようになった。オンライン会議専用だった空間が陶芸工房やヨガルームに変身し、「ある家ではミニ料理教室が開かれていた」という。

かつてはZoom会議で同僚や顧客に好印象を与えようと、インテリアデザイナーを雇って背景空間を整える人々もいたが、そうした時代から状況は一転。自宅のスペースを趣味に充てる動きが住宅所有者の間で強まっている。

ロンドンの不動産会社ドムス・ノヴァのディレクターでノッティングヒル支店責任者を務めるジャイルズ・バレット氏は、「最近の顧客の1人はホームオフィスを本格的なワインルームに改装した。ソムリエコースを修了した愛好家で、ワインを堪能するための独立した空間を望んでいた」と語った。

不動産・デザイン会社バンダの創業者兼最高経営責任者(CEO)、エド・マペッリ・モッツィ氏が最近手がけたハイドパークのタウンハウス改装では、当初は書斎として設計された部屋が最終的にシガールームに変わった。「純粋に仕事のための空間から趣味や娯楽、くつろぎの場へと重点が移っている兆しだ」とみる。

サザビーズ・インターナショナル・リアルティのベッキー・ファテミ氏は、英国の人気リアリティー番組「メイド・イン・チェルシー」に出演していたスペンサー・マシューズの邸宅を販売中だ。ロンドンのバタシー地区にある同物件の売却希望価格は530万ドル(約7億8000万円)で、伝統的な書斎の代わりにカラフルなリスニング/ポッドキャスティングルームが備えられている。

同様のトレンドはニューヨークでも見られる。同地の不動産会社エレベーテッド・アドバイズメントの共同創業者エリック・ブラウン氏は「高級不動産市場では、かつて必須とされたホームオフィスの地位が揺らいでいる」と指摘。週に4、5日はマンハッタンに戻る富裕層が増えるにつれ、ホームオフィスはより創造的な役割を持つようになっていると分析した。

「以前は静かでミニマルだった書斎が、今や活気ある趣味部屋、雰囲気のあるシガーラウンジやプライベートバーに生まれ変わっている。ゴルフシミュレーター室や本格的なジム、子ども向けのプレイルームやゲームルームに改装されることもある」とブラウン氏は説明。

同氏によれば、スペースが限られているニューヨーク市の住宅所有者は、部屋に複数の機能を持たせる傾向が強まっている。「朝は静かなワークアウトスペース、午後は子どものゲームゾーン、夜は洗練されたもてなしの場といった具合に、時間帯で部屋の用途が変わる」そうだ。

インテリアデザイナーや建築家の話では、建設途中で顧客のニーズが変わるケースが増えており、必須アイテムのリストにおけるホームオフィスの優先度はさらに下がっている。

クリガーマン・アーキテクチャー&デザインの建築パートナー、ロス・パドラック氏は「2件のプロジェクトで、建設中にホームオフィスが別の用途に変わった。1件はゲストルーム、もう1件は子ども部屋になった」と語る。

「北東部では大半の人がオフィスに復帰したため、一部顧客は在宅勤務スペースのより有益な使い方を求めている」と述べた。

バイイング・ソリューションのローソン氏は自宅オフィスをティーンエージャーのパーティールームに変えたことについて、「人生で一番いい決断だった」と冗談めかす。

「子どもたちは友人を呼んで自由に過ごせるし、私たち夫婦も干渉せずに済む。みんな幸せだ」と笑った。

原題:Home Offices Find New Lives as Hobby Rooms Due to RTO Policies(抜粋)

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