(ブルームバーグ):欧州の年金基金や大学の寄付基金など長期資金を抱える大口投資家が、中国のプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資に再び関心を示し始めている。長らく敬遠されてきた世界2位の経済大国だが、視界に入りつつあるようだ。
事情に詳しい複数の関係者によれば、カーライル・グループやウォーバーグ・ピンカス、PAGといった買収ファンドには、中国投資に関する新たな問い合わせが世界の大手投資家から寄せられている。非公開の情報だとして関係者が匿名を条件に語った。
実際の投資には至っていないものの、こうした動きはここ数年の状況とは極めて対照的だ。これまでは政治的緊張の高まりや中国当局による民間企業締め付けを背景に、資金がアジアの他地域へと移っていた。

しかし現在、中国市場は技術革新や経済に対する楽観的な見方、そして米市場からの資金シフトを追い風に活況を呈している。
HQキャピタルのアジア責任者マイケル・フー氏によると、「アジアと中国への投資に対して、これまでより少しオープンになっているのは確かだ」という。HQキャピタルはドイツのPE投資会社で、シンガポールと香港に拠点を構えている。
カーライルとウォーバーグ・ピンカス、PAGはいずれも、中国に対する世界的な投資家の関心の変化についてコメントを控えた。
米国リスク
投資家が中国に関心を示す兆候はあるものの、中国がPE市場でかつての存在感を取り戻す道のりは険しい。
世界の投資家は中国向けの資金配分を大幅に減らしており、その影響でアジア全体のPE資金調達に占める割合はここ数年で最も小さい。
世界のPE資金調達に占めるアジアの比率は2024年にわずか7%と、21年の13%から大きく縮小し、国際的な対アジア投資意欲の後退を浮き彫りにしている。
大中華圏はPEファンドによる投資回収の低迷も深刻で、24年の投資回収総額は前年比で約65%減、件数も40%以上減った。

一方、アジア全体では取引総額が11%増加し、中国以外の全市場で投資回収総額が改善された。特にインドは取引の総額と件数の両方で2桁成長を遂げ、際立った明るい材料となった。
KKRやカーライル、ブラックストーンなど大手ファンドは22年以降、中国での取引を停止または縮小してきた。KKRの広報担当者は、同社は中国で選択的に投資を続けており、特に消費者関連の機会に力を注いでいると説明した。
事情に詳しい関係者によれば、北米の投資家は引き続き中国への投資には消極的だ。欧州でも特に北欧の投資家はロシアがウクライナに仕掛けた戦争を背景に対中投資に慎重になっている。
中国向け投資は、ロシアの戦争努力を間接的に支援することにつながるとみていると、ある買収ファンドの地域担当トップは説明した。
そうした中で、投資家の行動に変化をもたらし始めているのが米国の混乱だ。トランプ米大統領が進める関税政策が米国回避の動きを後押しし、中国への関心を高めている。
米国を拠点とする投資家が匿名を条件に語ったところでは、米国が対外投資規制の一部を緩和する可能性への期待も新たな問い合わせにつながっているという。
HQキャピタルのフー氏は、トランプ氏の関税措置を受けて投資家心理が大きく変わったと指摘。昨年9月には中国に懐疑的だった投資家が、フー氏に対し中国の最新情報を求めたり、米国リスクへの懸念を示したりするようになったと話した。
好機なのか
中国におけるPE取引の活発化を示す兆しも出ている。8月にはTPGとカタール投資庁(QIA)が香港に上場している中国医療機器メーカー、康基医療を約14億ドル(約2060億円)と評価する取引で買収する提案を行った。
ブルームバーグは6月、KKRが中国の炭酸飲料メーカー、大窯の株式85%を約10億ドルで取得する合意に近づいていると報じた。
もっとも、中国市場が本格的に復活したと見なされるには、大型投資と投資回収が継続的に行われる必要があり、それまで資金投入は限定的にとどまるだろうと関係者は述べている。
ウォーバーグ・ピンカスのアジアPE部門責任者ヴィシャル・マハデヴィア氏は最近のインタビューで、今こそ中国に戻る「絶好のタイミング」だと主張し、「中国は世界2位の経済大国であり、分散型のグローバルポートフォリオを構築する上で拠点を持つことは賢明」との考えを示した。
原題:China Back on the Radar of Europe Pension Funds, Endowments (1)(抜粋)
--取材協力:Lulu Yilun Chen.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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