人工知能(AI)がバブル局面にあるのかという議論が改めて強まっているが、ドットコムバブル崩壊後にインターネットが残ったように、たとえバブルであってもAIが変革的存在であることは変わらないだろう。

AIバブル論の浮沈

9月には少なくとも2本の分析リポートが発表され、AIを巡る動きがバブルに類似しているとの見方が示された。アジーム・アザー(Azeem Azhar)氏の「Is AI a Bubble?(AIはバブルか)」、GQGパートナーズの「Dotcom on Steroids(ドットコムとステロイド)」だ。こうした真剣な診断は、皮肉にも「バブル懸念」が世間でやや沈静化した直後に出てきた。

ブルームバーグの機能、Bloomberg News Trends(ブルームバーグ・ニュース・トレンズ)の分析では、AIバブルに関する報道件数は波を描き、最大の山は2025年1月末の「DeepSeekショック」直後に訪れ、その後は減少傾向にある。

 

ドットコム時代との比較

四半世紀前のドットコムバブルとの比較は避けられないが、今回の状況は当時とは心理的に異なるように感じられる。2000年当時の米国は世界的に無敵感が強く、楽観と熱狂が至る所にあふれていた。これに対し、現在のAIを巡る熱狂は、むしろ集団で救いを求めるような感覚に見える。

ただ、ドットコムバブルは史上最も過剰な株式投機だった。AIバブルはそこまで極端ではないにせよ、株価の過熱感は共通している。2000年のピーク後に株価は約70%下落した。今回は60%の下落で済めば投資家がハッピーかといえば、そんなはずはない。

バブルの症状

経済史家チャールズ・キンドルバーガーが示した典型的なバブルのプロセスは以下の通り。

  1. 金融緩和がバブルの土台を作る
  2. 借り入れ拡大が投機を加速させる
  3. 資産価格が割高になる
  4. 説得力のある「物語」が高値を正当化する

これに照らすと、現在のAI市場にも多くが当てはまる。資金調達環境は依然として緩く、AIの将来性を裏付ける物語は強固に見える。しかしGQGは、かつて無敵と見なされていた企業が、利益が伸び続けているにもかかわらず着実なバリュエーション低下に直面していると指摘し、アドビ(Adobe)の例を挙げている。

 

データセンターなどの設備投資に投じられている資金の規模も、多くの企業が既に極端なリスクを取っていることを示唆している。アザー氏はシティグループのデータを用い、超大規模クラウド事業者(ハイパースケーラー)の支出を示すこのチャートを提示している。

GQGによれば、ハイパースケーラーの設備投資はEbitda(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)の50-70%に達しており、2000年の通信バブル期のAT&T(72%)や14年のエネルギーバブル期のエクソン(65%)と同水準にある。

投資家への示唆

マイクロソフト、アップル、オラクル、アマゾンといった大手テクノロジー企業はドットコムバブル崩壊後、ピークから65-94%の株価下落を経験し、元の株価水準を回復するのに最大16年を要した。

今回もAIブームが崩壊すれば株主は大きな痛みを味わうだろう。ただ、08年の金融危機の時とは異なり、資金調達の大半が株式によっている点は救いだ。債務不履行を引き金とした深刻な景気後退というよりむしろ、ドットコムバブル崩壊に近い形で、影響は市場に限定される可能性が高い。

結論

結論として、AIは確実に社会と経済を変革するだろう。ただし、いわゆる創造的破壊というものの常として、その成果をわれわれが享受する前に幾分の痛みを伴うことは避けられない。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Assume AI Bubble. What Difference Would It Make?: John Authers(抜粋)

--取材協力:Richard Abbey.

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