(ブルームバーグ):米政府の機関閉鎖はここ数十年で珍しくなくなっている。そのため、全ての連邦機関が対応マニュアルを備えるようになっている。
しかし、トランプ政権は9月30日の会計年度末を前に、そうした対応計画を急ピッチで書き換えており、今回の閉鎖が実際に起これば過去のどの事例よりも予測不能で、かつ混乱を拡大させる可能性がある。
政府閉鎖の原因は常に同じだ。議会が現行歳出法の期限切れまでに新たな予算を承認できないことによる。
ただし、その影響は閉鎖が発生する時期や期間、予算編成過程における特有の仕組みによって異なる。これにより、資金が一部の機関には回る一方で、別の機関には回らないといった状況が生じ得る。

政府機関が今週閉鎖となれば、これまでより深刻な状況になる公算が大きい。会計年度や四半期、月の初めに閉鎖が始まるのはオバマ政権期以来となる。議会は各機関に資金を配分する12本の歳出法案を1本も可決していない。
トランプ大統領は一段と圧力を強めており、閉鎖リスクを高めている。

ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)は24日、各省庁に対し、閉鎖時に誰が休職となるかを明記した対応計画を修正するよう指示した。省庁側は、OMBの承認が下りるまで計画を公表できないとしており、27日午前の時点でも詳細は乏しい。
法律上、人命や財産の保護に不可欠な活動は継続される。これには軍事行動や法執行、食品検査などが含まれる。
大統領は憲法上の職務を遂行しなければならず、ホワイトハウスや通商代表部(USTR)は閉鎖中も業務を続ける。上院で就任が承認された高官は常に休職対象外だが、スタッフ不在となる可能性がある。議員の給与も、合衆国憲法修正第27条により支給が継続される。
また、連邦準備制度理事会(FRB)や消費者金融保護局(CFPB)は議会による年次歳出で運営されておらず、独自の資金源に基づき業務を続けられる。
全米旅客鉄道公社(アムトラック)や米郵政公社(USPS)、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)、フレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)といった政府所有または政府支援の企業も、議会の年次歳出に依存しない資金調達手段を持つため、運営を継続する。

過去の政府閉鎖では、連邦職員の約4割が一時帰休となり、法律によりボランティア労働の受け入れが禁じられているため業務に従事できなかった。残り6割は不可欠な職務として勤務を継続した。
いずれにせよ、閉鎖中は給与が支払われない。2019年に制定された政府職員の待遇に関する法律により、閉鎖終了後は勤務の有無にかかわらず、さかのぼって職員に給与を支払うことが明文化された。
旅行・交通
連邦航空局(FAA)や運輸保安局(TSA)は安全確保に不可欠な業務を担っており、閉鎖中も継続される。ただし、旅行者には遅延の可能性がある。航空管制官やTSA職員は無給での勤務を余儀なくされるため、過去の閉鎖時には欠勤率の上昇につながった。
米国の大使館や総領事館での旅券業務も継続できる。

社会保障・医療
メディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)の給付や社会保障の新規・継続給付は継続される。ただし、給付資格の確認や所得記録の訂正、カード再発行といった事務手続きは、過去の閉鎖時に遅延した例がある。
労働統計局(BLS)は、10月のインフレ統計発表が遅れれば、社会保障給付の生活費調整(COLA)の算定に影響する可能性があるとしている。
セーフティーネットとなる食料支援プログラムは過去の閉鎖時には継続されてきたが、トランプ政権下では優先度が下がる可能性もある。
国立公園・博物館

大半の国立公園は閉鎖され、観光客の受け入れが停止される見通しで、1兆ドル(約149兆円)規模のアウトドアレジャー産業にも影響が及ぶ。
過去の閉鎖では公園が完全に閉鎖された例もあるが、18年には国立公園局が一部アクセスしやすい施設を開放し続けた。ただし、その際はトイレ清掃が行われず、ごみの増加が問題となった。
国防
制服組の軍人は一時帰休の対象外で、無給ながら勤務を続ける。一方、国防総省の民間職員の大半は当初、一時帰休となる見込みだ。
南北戦争時の法律に基づき、国防総省は兵士支援のため多くの契約業務を継続できる。アーリントン国立墓地での埋葬や見学ツアーも継続される。
情報機関の影響については詳細が明らかにされていないが、国家情報長官室(ODNI)は過去に、職員が自動的に閉鎖の対象外になるわけではないとする指針を示している。

労働・経済関連データ
労働省の機関のうち、完全に閉鎖される可能性が高いのはBLSだ。
情報公開法に基づき25年3月に公表された緊急時対応計画によれば、政府閉鎖となれば9月の雇用統計(10月3日発表予定)公表が遅れる見通しで、閉鎖が続けば月半ばに予定されているインフレ関連指標の公表にも影響が及ぶ可能性がある。
ただ影響はデータ公表にとどまらない。データ収集そのものも停止し、数カ月にわたり統計の質が損なわれる。この結果、FRBは利上げ・利下げの判断材料となる信頼できるデータを欠くことになる。
データに依存する政策当局者や投資家は、経済の健全性を把握するために民間調査など第三者の情報に頼らざるを得なくなる。
財務省
過去の政府閉鎖では、財務省は政府の借り入れや債務返済、大統領の憲法上の権限に基づく政策業務などを継続してきた。
多くの調査・規制関連機関は利用手数料で運営されており、業務を継続する。これには金融調査局や金融安定監督評議会(FSOC)などが含まれる。
一方、対米外国投資委員会(CFIUS)での案件処理は停止し、進行中の合併案件の判断が宙に浮く可能性がある。
規制当局
トランプ政権は独立規制機関への統制を強めているが、過去の政府閉鎖時の計画では、連邦取引委員会(FTC)は大半の調査活動を停止するとされていた。
証券取引委員会(SEC)は投資顧問やブローカーディーラー、トランスファーエージェント、格付け会社、投資会社などからの登録申請を審査・承認しない。
商品先物取引委員会(CFTC)は1995年の法的見解に依拠しており、市場監督機能は「民間経済に大規模な混乱と損失を引き起こし、社会や民間活動の多くの側面に混乱を生じ、計り知れない苦難と損失をもたらす」ことを防ぐため不可欠だとしている。
消費者製品安全委員会(CPSC)は「人命に対する差し迫った安全上の脅威」がある場合にはリコールを発表できるが、通常の監視活動は停止する。
エネルギー・環境
環境保護局(EPA)は他の資金源による一部プログラムや活動を継続できる。エネルギー情報局(EIA)は人員削減の影響で報告の遅れにすでに苦慮しており、閉鎖される可能性が高い。

住宅
連邦住宅局(FHA)とジニーメイ(連邦政府抵当金庫)が運営する住宅ローンプログラムは、過去の閉鎖時も継続してきた。公営住宅など補助金を活用した住宅は、年次歳出法案に依存していないが、資金が枯渇するリスクが残る。
連邦裁判所
10月6日に新しい期を開始する最高裁判所は、短期的な閉鎖であれば通常業務を継続すると、広報担当のパトリシア・マケイブ氏が述べた。
下級裁判所は過去、年次歳出に左右されない資金を取り崩して対応してきたが、その資金も枯渇する可能性がある。

FRB
FRBの業務は影響を受けず、金利調整や銀行規制、経済調査を継続できる。FRBから資金供給を受けるCFPBも業務を続けるが、トランプ政権下では活動を大幅に縮小している。
議会
議会の運営資金も枯渇するが、政府閉鎖を終わらせるためには機能を維持しなければならない。一方、議会の所管機関である議会図書館や米国植物園は、一般来訪者への公開を停止する見通しだ。
原題:Here’s What Happens When the US Government Shuts Down(抜粋)
--取材協力:Greg Stohr、Adrienne Tong.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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