(ブルームバーグ):トランプ米大統領は25日、米国内に医薬品工場を建設していなければ、ブランドまたは特許取得済みの医薬品に100%の関税を課すと発表した。10月1日に発効する。
トランプ氏はソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、企業が米国で製造工場を着工していた場合、あるいはそうした工場が建設中となっていれば、医薬品輸入には関税はかからないとも説明した。
「企業が米国内に医薬品工場を建設していない限り、10月1日からブランド化または特許取得済みの医薬品に100%の関税を課す」とし、「建設が始まっていれば、こうした医薬品に関税はかからない」と投稿した。
トランプ大統領は新たに導入される分野別関税に関して他にも発表を行った。輸入される大型トラックには25%の関税が課され、キッチンキャビネットや洗面化粧台に50%、布張り家具には30%の関税がそれぞれ適用される。これらは来月1日から実施される予定。
一連の措置は、トランプ政権発足直後から推進してきた関税政策の急拡大を意味している。今回の発表は、トランプ氏が前例のないレベルで大統領権限を行使しているタイミングで行われた。政敵であるコミー元連邦捜査局(FBI)長官が偽証罪で起訴され、トランプ氏からの強い圧力があったとされる。
アジア株は一時0.9%安と、今月に入って最も大きな下げとなっている。医薬品銘柄が軟調に推移している。
一連の投稿にはこれ以上の詳細は示されなかった。医薬品に対する関税計画については、米国内に拠点を持つ多国籍製薬企業に対して広範な適用除外が講じられる可能性がある。ホワイトハウスにさらなる具体的説明を求めたが、すぐには返答がなかった。

赤沢亮正経済再生担当相は、トランプ氏の発言に対するコメントは控えるとした上で、「米国の動向を注視し、日米合意との関係を含む措置の具体的内容や影響を十分精査しつつ、適切に対応する」と発言。将来、医薬品に関税が課される際に、最恵国待遇とする日米合意を確保しているとも述べた。26日の閣議後会見で語った。
ブルームバーグ・エコノミクスによると、ブランド医薬品に対する関税措置で米国の平均関税率は最大3.3ポイント上昇する可能性がある。ただ、同国で生産施設の建設を進めている企業への適用除外によって、その影響は和らぐこともあり得る。シンガポールとスイスが今回の措置で最も大きな影響を受けることになりそうだ。

トランプ政権発足以降、海外から輸入される医薬品に関税を課すとの度重なる警告を受け、メルクやアストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど製薬大手は米国への多額の投資計画を相次いで発表している。
米国みずほ証券のヘルスケアスペシャリスト、ジャレッド・ホルズ氏はリポートで、「トランプ大統領による実際のコメントは直接的だが、その影響は不透明か、あるいはごくわずかにとどまる可能性もある」と分析。「主要各社は何らかの形で米国内に製造拠点を持っており、ほぼ全てが米国での製造を明確に目的とした投資増額を発表している」と指摘した。
それでも、影響を受ける企業が一部出る可能性もある。多国籍医薬品メーカーは米国内市場向けには米工場から主に供給していると説明しているが、全ての企業が約束した拡張計画に着手しているわけではない。
現在もなお、米国で最も売れている医薬品の一部は主に海外で製造されている。例えば、ノボノルディスクの2型糖尿病治療薬「オゼンピック」と肥満症治療薬「ウゴービ」の主要原料はデンマークで生産されている。また、イーライリリーのGLP-1受容体作動薬「マンジャロ」も、重要な製造工程の初期段階はアイルランドで行われている。
日本の一部メーカーは新関税の対象となる可能性もある希少・重篤な疾患向けの医薬品を製造している。中外製薬は血友病患者の血液凝固を助ける「ヘムライブラ」を生産。一方、第一三共は「エンハーツ」を製造している。
トランプ政権は通商拡大法232条に基づき、分野別関税を課してきた。これであれば、議会の行動なしで国家安全保障上の脅威と見なされる輸入品に関税を賦課することができる。すでに自動車や銅、鉄鋼、アルミニウムへの関税にも使われてきた。
また、今後は半導体や重要鉱物などへの新たな関税も見込まれている。さらにトランプ政権はロボットや産業機械、医療機器の輸入に関する調査も開始しており、これらは同国内の製造業に広範な影響を及ぼす可能性がある。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が事情に詳しい関係者を引用して26日報じたところでは、トランプ政権は国外半導体製造への依存を減らす計画を検討している。半導体企業に対し、海外メーカーから顧客が輸入する半導体と同じ量を米国内で製造するよう求めることを目指しており、ラトニック商務長官が一部の企業幹部とこの件について協議したという。
4月にジェネリック医薬品・ブランド薬の完成品および原料を含む全ての医薬品輸入が米国の国家安全保障に与える影響について、商務省が調査を始めていた。
トランプ氏は7月に入り、製薬企業に対し事業を米国に移す猶予期間を設けた上で、最大200%の関税を課す方針を示していた。その後、同月15日には早ければ月末までに医薬品への関税を発動する可能性が高いと述べていた。
新たな関税が既存の国・地域別の合意に上乗せされないのであれば、影響は限定的となる見込みだ。7月下旬には米国と欧州連合(EU)が15%の医薬品関税を含む広範な貿易合意に達した。
原題:Trump Plans New Tariff Push With 100% Rate on Patented Drugs (3)(抜粋)
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--取材協力:照喜納明美.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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