電子取引の進歩が、為替市場のボラティリティーを押し下げ、長期にわたる激しい値動きは、過去のものになりつつある。

これは、今週バルセロナで開催された業界の年次イベント「トレードテックFX会議」に参加した関係者らの見解だ。イベントでは、自動化とアルゴリズム取引の拡大がもたらす影響が主要議題となった。劇的な動きの欠如は利益の創出を困難にし、市場参加者が撤退するリスクになると警告する声もあった。

こうした指摘の背景には、1日7.5兆ドル(約1100兆円)規模の外国為替市場で、この1年のボラティリティーがほぼ最低水準まで低下したことがある。米国の関税発表を巡り起きた4月の乱高下も、長期的な下降トレンドの中の小さな変動に過ぎなくなった。トレーダーは大きな変動を好むが、比較的穏やかな環境は、ヘッジを求める資産運用会社や企業にとっては好都合かもしれない。

シュローダーズの為替取引責任者ゴードン・ヌーナン氏は「ボラティリティーが急落する可能性が爆発的に高まっている」と語る。同氏は、米雇用統計発表後の為替変動を例に挙げ、「電子取引における異常な展開。以前はスプレッドが長時間拡大していたが、今では30秒以内に即座に収束する」と指摘した。

こうした変化により、通貨市場は世界市場の中で特異な存在となった。経済・地政学的リスクが山積しているにもかかわらず、株式や債券で見られる大きな変動からは切り離されているのだ。

 

複数の指標に、この静けさが表れている。米国債利回りは、ほぼ歴史的なリズム通りに変動している中、ユーロの日中変動幅は長期平均の半分以下に縮小している。ブルームバーグのマーケット・インパクト・モニターも、主要経済指標発表に対する為替市場の反応が、米国債に比べて最近はより小幅になっていることを示している。

戦略変化

クオンツトレーディング会社、XTXマーケッツによると、4月の関税を巡る騒動時や中央銀行会合前後など、散発的な日中の価格急騰は引き続き発生している。だが、市場の主要参加者の構成が変化したことで、以前より迅速に落ち着く傾向にあるという。

同社流通部門責任者のジェレミー・スマート氏によると、この傾向は、小規模取引業者の台頭と、競合するシステム戦略の多さに起因している。同氏は「非銀行系機関が外国為替市場を見て『他の資産クラスと比べてリターンがそれほど魅力的ではない』と立ち去ることもあり得る」と述べた。

こうした状況により、ボラティリティーへの逆張り戦略が、通貨市場の主要な手法となった。運用マネジャーはかつて、こうした環境を次なる急騰に備えた安価なヘッジ手段をとりあえず確保する機会として利用していた。

ヌーナン氏は「数年前まではフラッシュクラッシュが頻発していたが、今はそうではない」と述べ、専門的な通貨トレーダーさえ不要になりつつあるとの見方を示した。

機械化

だが、こうしたボラティリティーの縮小がマクロ環境と矛盾するとして、一部の関係者は困惑している。バルセロナのイベントでは、人間のトレーダーを機械が代替した感情の欠如や、大きな方向性に賭けるプレイヤーの減少など、様々な理由付けがなされた。

多くの先進国市場で金利が同時に低下し、特に米金融当局も17日の政策緩和決定でこの流れに追随した今、ボラティリティーの低さは正当化されると主張する声もある。トレーディング会社オプティバーのジョン・ロススタイン最高執行責任者(COO)は「中央銀行の政策が収束すれば、当然為替ボラティリティーは低下する。残念ながら予想通りだが、他の資産クラスと異なる様相を呈している点が奇妙かもしれない」と述べた。

イベント参加者らの不安の一つは、似たような取引技術の導入が、市場に群集心理的な影響を与えているという懸念だ。アルゴリズムは、ほぼ同一の価格モデルや戦略に収束すると主張する人もいた。

ロンドン証券取引所グループの調査によると、さらに多くの技術への投資は、今年も通貨取引企業の優先事項となっている。この調査では、自動化が進む市場で競争優位性を獲得するため、企業は人材の採用よりも機械に目を向けていることが明らかになった。

バークレイズのG10通貨トレーディングの共同責任者、トルステン・シェーンボーン氏は「今では多くの場合、トレーダーは多くの取引を代行する機械と仕事をしており、信号を受け取り、微調整をするだけだ」と語った。

原題:Traders Blame ‘Insane’ Tech Advancements for Quiet FX Markets(抜粋)

--取材協力:Vassilis Karamanis.

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