(ブルームバーグ):スイスの銀行UBSグループは、スイス政府が計画する260億ドル(約3兆8000億円)の自己資本要件の引き上げについて、対応を模索している。
外国銀行とのM&A(合併・買収)による本拠地変更で規制を回避するという大胆な手段から、資本を積み増すための技術的な調整という穏健な策まで幅広い選択肢が挙がっている。
現時点でUBSは拙速な大転換に動く姿勢を見せていない。むしろ、スイス議会で法案が審議される間、最長3年にわたりロビー活動や世論形成に注力する構えだと事情に詳しい複数の関係者は明かす。
しかし、スイス政府が要求を緩めなかった場合、大きな変化がなお必要になる。

2023年にUBSが政府の仲介でクレディ・スイスを救済した後、規模が拡大したUBSで将来危機が発生した場合について懸念が浮上し、資本強化が議論されるようになった。
コルム・ケレハー会長は新たな資本要件を「極端だ」と批判し、UBSが世界の競合他社に対して不利になると警告している。しかし、ケラーズッター財務相は、この法案を緩和する姿勢を見せていない。
セルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)は11日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「いかなるシナリオや対応についても、今はコメントするには明らかに早過ぎる」と述べた。「もちろん、現行の提案は非常に懲罰的で過度なものであり、株主を含めた利害関係者の利益をどう守るかを考える必要がある」と続けた。

UBSはスイス政府の改革案に対する立場を月内に改めて示す予定で、現時点ではこれ以上のコメントを控えている。
影響と争点
資本要件の引き上げは銀行の安全性を高める一方で、収益性を損なう恐れがある。
UBSにとって最大の争点は、海外子会社を巡るリスクだ。スイス政府は、このリスクを全て親会社の資本で担保することを求めている。これによりUBSは海外で深刻な損失が発生した場合に備えて資本を強化することになる。

この対応を取れば、UBSの普通株等ティア1(CET1)比率は今後10年で約19%に上昇する見通しだ。より強固な銀行と見なされ借り入れコストが下がるとの指摘もある一方で、資本比率は同業他社が事業を運営している水準を大きく上回ることになる。
自己資本を増やすには、株主還元を抑制するか、増資を通じて投資家に追加負担を求める必要がある。いずれも既存株主の反発や株価下落を招きかねず、単独では魅力に欠ける選択肢だ。
部門縮小や分離
銀行の事業部門の構成を変えることで資産を圧縮する方法もある。多額の資本を必要とするリスクの高い部門を売却するか縮小すれば、政府の新たな自己資本要件を満たせる可能性は一気に高まる。

UBSの中核事業は世界の富裕層向け資産管理であり、リスクが高い投資銀行部門は、縮小や分離の候補として注目される。
UBSとクレディ・スイスの投資銀行部門を合わせても、ウォール街の競合と比べれば規模は小さいが、投資銀行は超富裕層向けの高度で複雑なサービスを提供しており、縮小は大きな賭けになる。
より現実的な選択肢は、高リスク企業向け融資など特定の事業の縮小だ。ヘッジファンド向け融資を担うプライムブローカレッジも、国際的な資本規制強化に伴い資本負担が重くなっており、見直し対象になり得る。
技術的調整
痛みを伴う部門整理をせずにバランスシートを調整する技術的な方法もある。「シグニフィカント・リスク・トランスファー(SRT)」を活用して信用リスクを外部投資家に移転する手法を、さらに強化することもできる。欧州の銀行では広く用いられているが、リスク加重資産削減の効果は限定的だ
協調的な外国当局の同意を得て、海外事業に積み上がった余剰資本を本国に還流させる「アップストリーミング」という手法もある。UBSはこの方法で今後50億ドルを移転する計画を立てている。
ただ、各国の規制当局は銀行に対し現地での資本留保を強く求めており、資金還流には高いハードルがあると規制関係者は指摘している。
収益力改善
規模を縮小してスイスの規制改革を乗り切るのは本来の成長志向に反する選択肢だ。むしろ、現状の戦略を着実に強化して実行することで、大規模な変更を避けつつ資本要件に対応できる可能性もある。
難局を収益力で乗り切るには、非効率な米州事業の立て直しが鍵になる。米州の資産管理部門のコスト・インカム比率は90%超とグループ内で最悪の水準にある。
本社移転やM&A
他国よりも厳格なスイスの規制がUBS投資家にとって負担となっているため、本社を国外に移すべきだとの声もある。

ブルームバーグは今年3月、UBSが資本規制強化を受けて本社移転を検討していると報じた。
しかし、経営陣はここ数カ月でこの選択肢から距離を置きつつある。
ただ、今後数年でM&Aの動きがあれば、新たな出発点となる機会を提供する可能性もある。
ケレハー会長は以前から米国の資産運用会社の買収に意欲を示しており、モルガン・スタンレーでの豊富な経験から現地とのつながりも持つ。一部幹部の間では、国際的なM&Aをきっかけに「後付け的に」新しい本拠地に移行できるとの見方もあるという。
UBSの幹部が最近、資本要件に対応する戦略を検討するため米当局者と面会したと、米紙ニューヨーク・ポストが15日報じている。
現時点でUBS経営陣は、業績を堅調に維持し、スイス議会が最終的に柔軟な判断を下すことに期待をかける戦略だ。最終法案の採決は早くても2027年末までは行われない見通しとなっている。
しかし、投資家は既に不安を抱いている。UBS株を約1.4%保有するセビアンの共同創業者ラース・フォールベリ氏は最近メディアに、UBSにはもはやスイスを離れる以外に選択肢はないとの見方を示した。
原題:UBS Weighs Options in $26 Billion Showdown With Swiss Government(抜粋)
--取材協力:Christopher Cannon、Alexander McIntyre、Mathieu Benhamou.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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