アクティビスト(物言う株主)による日本株投資は今年、過去最高だった昨年を上回るペースにある。企業に対し投資家目線の経営を求める圧力が強まる中、株主還元強化などの主張も受け入れられやすくなっている。

公開情報とブルームバーグ・インテリジェンスのデータを総合すると、主要アクティビストは2025年上半期、約8900億円を日本株に投資した。4年ぶりに過去最高を更新した24年は、年間の投資額が1兆円超だった。集計のベースがやや異なるため単純比較はできないが、その後も堅調な買いが続いていることから、今年も記録更新はほぼ確実だ。

アクティビストは大量保有報告書の提出義務が発生する5%以上の株式を保有していない場合は情報を開示しないことも多く、実際の投資額はさらに大きい可能性がある。

アクティビストの存在感が増すにつれ、日本企業は株主の利益を最優先に考える「株主資本主義」へ本格的に移行し始めている。ブルームバーグのデータでは、今年はこれまでに計14兆6300億円の自社株買いが発表された。通年で過去最高だった昨年の同期間を8%上回る。

岡三証券の内山大輔シニアストラテジストは、アクティビストが企業とのエンゲージメント(対話)を主導する中、「日本企業の間ではため込んだ現金の使い道がないのであれば、株主に返還しようという動きが顕著だ」と話す。「ガバナンスであれ資本効率であれ、企業側に隙があればアクティビストに突かれやすい状況だ」と述べた。

回収資金が還流

アクティビストからの圧力を避けて経営の自由度を高めようと、企業が株式公開買い付け(TOB)や経営陣による買収(MBO)を通じて非上場化を目指す動きも増えている。ブルームバーグのデータによると、国内のMBO件数は今年24社と、昨年1年間の19社を既に上回る。

三菱UFJアセットマネジメントの友利啓明エグゼクティブファンドマネジャーは、「TOBやMBOが増えると、アクティビストだけでなくほかの投資家も資金を手にすることになる」と指摘。その資金が市場に還流することで、「相場が底堅くなっている感覚がある」と言う。

実際、今年上半期は米ファラロン・キャピタル・マネジメントとシンガポールに拠点を置く3Dインベストメント・パートナーズの活動が目立った。両社とも、米投資ファンドKKRが昨年実施した富士ソフトへのTOBに応募し、資金を回収していた。

ファラロンはアステラス製薬とT&Dホールディングス、ニッコンホールディングスの3社に投資をしたことが明らかになった。23年と24年に公開された投資案件はいずれも1件だった。3Dインベストメントもゲーム開発のスクウェア・エニックス・ホールディングスに大型投資するなど、日本株のポジションを大幅に増やした。

今年6月には化学メーカー、太陽ホールディングスについて、香港のオアシス・マネジメントなど主要株主が買収提案に対する対応の遅さなどを理由に佐藤英志前社長の再任案に反対。株主総会で同氏の再任が否決された。企業経営に与えるアクティビストの影響力が拡大したことを示す事例だ。

三井住友信託銀行によると、25年の6月総会では株主提案を受けた114社のうち、提案者がアクティビストら機関投資家だった企業は51社で過去最高を記録した。

ニッセイ基礎研究所の森下千鶴研究員は、アクティビストを警戒する必要性が現実のものになり、日本の企業経営者の意識や行動の変化につながっていると話した。

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