アクティビスト(物言う株主)として投資先企業の東京コスモス電機社長に就任した門田泰人氏(50)が、自ら新たにアクティビストファンドを立ち上げ運用を開始した。経営者の視点も踏まえ、株主となって企業価値の向上などを促していく方針だ。

門田氏はインタビューで、最高投資責任者(CIO)を務めていたスイスアジア・フィナンシャル・サービシズから引き継いだ数百億円の運用資産残高を今後2年程度で1000億円超に増やしたいと述べた。割安(バリュー)株戦略の中で、資産拡大に応じて投資対象を中小型株中心から徐々に大型株に広げていく意向だ。

同氏は、日本企業には株式の持ち合いやメインバンク制など「構造的課題があり、効率経営の阻害要因になっている」と指摘。「志のある一人の取締役がいても会社を変えることは難しく、株主という外からのプレッシャーが必要になっている」と話す。

日本では企業に資本効率の改善などを求めるアクティビストの発言力が増している。三井住友信託銀行によると6月の定時株主総会では、アクティビストを含む機関投資家から株主提案を受けた企業が51社と過去最高を記録した。PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業はいまだ多く、アクティビストの活動余地は大きい。

門田氏はコスモス電の社長として企業価値向上を目指しながら、7月中旬に業務を開始したアクシウム・キャピタルの運用にも力を入れる。従来のアジア中心の投資家層に加え、既に米ファミリーオフィス「ジ・オブザーバトリー」を含め複数件の投資があったと明かした。業容拡大に向け1年以内に間接部門も含め6人程度を採用する方針も示した。

相対的に魅力

ファミリーオフィスのほか、米国の大学基金やファンド・オブ・ファンズなどが関心を示し、8月は約65億円の資金流入があったという。オブザーバトリーは日本でも知られる「ビタミンウォーター」製造販売会社の創業者一族の資産管理会社。事業会社は2007年に米コカ・コーラに41億ドル(約5000億円、当時)で買収された。

豊富な資金力を持つ海外のファミリーオフィスについて門田氏は、グローバルでありとあらゆる投資戦略を精査していると説明する。アクティビズム先進国である米企業の資本効率化が進み、リターンの余地が狭くなる中で、日本企業に対するアクティビズム戦略は「非常に魅力的な状況になっている」と述べた。

コーポレートガバナンス(企業統治)専門家のニコラス・ベネシュ氏は、ファミリーオフィスの動きは日本市場でアクティビスト投資が「主流の投資手法」として定着しつつある証左だと分析。こうした日本社会のしがらみがない資金は「アクティビストファンドを通じて高いリターンを狙うことをいとわなくなっている」とみる。

「利益相反に当たらず」

門田氏はUBS証券やローン・スター・ジャパンを経て22年12月からスイスアジアのCIOを務めていた。6月に開催されたコスモス電の定時株主総会で、筆頭株主のスイスアジアが推薦した候補として取締役に選出された後、社長に就任した。門田氏を含め株主提案の取締役候補8人全員が選任され、岩崎美樹前社長ら5人全員が否決される異例の事態となった。

スイスアジアは自動車部品などを手掛けるコスモス電について、収益性の悪化や後継者の不在などを問題視していた。門田氏は収益向上策の洗い出しを進め、11月をめどに新たな中期経営計画を策定する方針を示した。経営陣の総入れ替えは緊急事態であり、大株主として「最も早く、最も高い利益を実現したいという動機を強く持っている」と語った。現在はアクシウムが約27%を持つ筆頭株主だ。

社長業とファンド運営を掛け持ちすることの是非について門田氏は、コスモス電から報酬を得ず、株主代表の立場を明確にすることで「利益相反には当たらない」と強調した。「1年ぐらいは社長を続けようと思うが、少しずつ関与を落とし、ゆくゆくは取締役会議長の役割に注力していく方向にしたい」としている。

ベネシュ氏は門田氏の兼任について、「企業の利益が損なわれると考える理由は特段見当たらない」と話す。むしろファンドの評判に関わってくるため、企業価値の向上や成長の実現に向けて経営に当たる動機は「会社の利益と一致している」と指摘した。

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