米雇用者数の伸びは2025年3月までの1年間、従来の発表値よりはるかに低いものだった可能性が高い。9日に発表された年次ベンチマーク(基準)改定の推計値で明らかになった。米金融当局に対する利下げ圧力が強まりそうだ。

米労働統計局が発表した推計値によれば、3月までの1年間の雇用者増は91万1000人下方修正されそうだ。下方修正幅は同統計史上で過去最大。1カ月当たりでは7万6000人近い下向き改定となる。確報値の発表は来年2月に予定されている。

ベンチマーク改定の発表前の段階では、雇用者数は3月までの1年間に約180万人増(季節調整前)だった。月平均では14万9000人増。年次改定で、1カ月当たりの雇用の伸びがその約半分だったことが示された。

今回の改定は、より緩やかな雇用増加が長期間続いた後、ここ数カ月に労働市場が減速したことを示唆しており、来週の連邦公開市場委員会(FOMC)会合からの一連の利下げにつながる可能性がある。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は最近、雇用市場におけるリスクの高まりを認めており、7月会合では理事2人が利下げを支持していた。

市場では、9月会合で利下げが決定されると広く予想されている。年次改定の発表後、米国債利回りは上昇。円は対ドルでの上げ幅を縮めた。

BMOキャピタル・マーケッツのシニアエコノミスト、サル・グアティエリ氏はリポートで、労働市場は「2025年3月までの1年間、労働統計局の当初の推計よりもかなり弱く、FOMCが来週利下げする根拠がさらに増えたことになる」と記した。

雇用者数はほぼ全ての業種、そして大半の州で下方修正された。卸売業・小売業が特に大きく引き下げられ、次いで娯楽・ホスピタリティーが続いた。またプロフェッショナル・ビジネスサービスと製造業も顕著に下方修正された。

ベンチマーク改定は毎年行われるが、今年は特に、労働市場が当初発表のデータより速いペースで冷え込んでいることを示唆するシグナルが出ていないかと、市場やFRBウォッチャーが注目していた。

政権からの批判

データ改定は政治にも影響している。月次雇用データの大幅修正はホワイトハウスによる激しい批判を招き、8月にはトランプ大統領が労働統計局の局長を解任する事態となった。昨年も24年の年次基準改定の推計値で今回と同様の大幅な下方修正が示された際、トランプ氏はバイデン大統領(当時)を標的にし、同政権の信頼性や経済実績を批判していた。

24年の年次改定の確報値は推計値ほど厳しくはなかったものの、それでも09年以来の下方修正幅となった。

ホワイトハウスのレビット報道官は声明で、「きょう労働統計局は過去最大の下方修正を発表し、トランプ大統領が正しかったことが証明された。バイデン前政権下の経済は悲惨な状態だった。労働統計局は機能不全に陥っている」と指摘。「だからこそ、労働統計局のデータへの信頼と信用を回復するため新しいリーダーシップが必要なのだ」と続けた。

トランプ氏はデータ修正に批判的だが、月次の修正も年次基準改定も、追加データを反映させるための通常のプロセスの一環だ。近年は修正幅が通常より大きくなっており、一部エコノミストは、パンデミック後特有のダイナミクスが影響していると指摘する。

チャベスデリマー労働長官は声明で「今回の大幅な下方修正は、労働統計局が公表するデータの信頼性に対し、米国民がさらなる疑念を抱く理由を与えるものだ」と述べた。労働統計局は労働省の管轄下にある。

長官は「これらのデータは経済予測や主要な政策決定の基盤となるものであり、これほど重大かつ継続的な誤りが入り込む余地はない。データは正確かつ公正でなければならず、政治的利益のために改ざんされるようなことがあってはならない」と続けた。

税務コンサルティング会社RSM・USのチーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は、今回の改定はそれ単体で見れば大きいものの、経済全体の文脈ではそれほど大きくはないと指摘する。

同氏は、「1億6330万人が雇用されている経済において、91万1000人の下方修正が12カ月に分散されるなら、量的な観点から見てそれほど大きな数字ではない」とリポートに記述。その上、「それら月ごとの下方修正が判明するのは26年2月になってからだ」と述べた。

影響した要素

当初の雇用者数データには、企業の設立・閉鎖に伴う調整や不法移民の算定といった複数の要因が影響した可能性があると、一部エコノミストは指摘している。

労働統計局は毎月の雇用統計を2つの異なる調査から作成している。基準改定の対象は事業所調査に基づく雇用者数で、家計調査に基づく失業率には影響しない。

労働統計局は年に1回、3月時点の雇用者数を見直す。ベンチマーク改定は、速報性に欠けるものの正確性の高い「四半期雇用・賃金調査(QCEW)」を基に行われる。QCEWは州失業保険税の記録を基に作成され、全米の雇用者の大部分をカバーする。

今回の推計値は25年3月の雇用者総数に適用される。確報値は来年2月に発表予定の雇用統計に含まれ、月ごとの改定内容が明らかになる。

近年では、当初の月次雇用者数データがQCEWの数値より強めに出ている。その一因として、労働統計局が企業の新規設立・閉鎖の数を反映するために行う調整のモデルが、パンデミック後の環境では精度が低下している可能性が一部で指摘されている。

また別の要因として移民が挙げられている。QCEWは失業保険の記録に基づいているため、不法移民は含まれない。そのため、当初の雇用統計に含まれていた多数の不法移民労働者が改定後のデータからは除外されている可能性が高い。

原題:US Payrolls Marked Down a Record 911,000 in Preliminary Estimate(抜粋)

(ホワイトハウス報道官の声明や背景などを追加し、更新します)

--取材協力:Reade Pickert、Mark Niquette.

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