(ブルームバーグ):フランスのマクロン大統領は9日、前政権で国防相を務めたセバスチャン・ルコルニュ氏を新首相に指名した。長年の盟友を起用し、分裂状態にある下院で予算案の可決という重責を託す。
バイル首相はこの日、前日の国民議会(下院)での不信任決議を受けて正式に辞任。ルコルニュ氏は、この2年間で5人目の首相となる。直近の2人の首相は、ユーロ圏で最大となる財政赤字を大幅に削減する予算案を通そうとして退陣に追い込まれた。
与野党の議員はマクロン氏の政策継続に反発し、総選挙の実施を求めてきた。ルコルニュ氏率いる少数与党政権が2026年度予算案を可決させ、不信任決議を回避するには、左派または右派の暗黙の支持が不可欠だ。
ドイツ・マーシャル基金(GMF)の調査アナリスト、ゲジーネ・ウェーバー氏(パリ在勤)はインタビューで「誰が任命されようと極めて難しいだろう。昨年と同じく、野党が譲歩する意向をほとんど示していない」と述べた。
マクロン氏はルコルニュ氏に対し、「予算案可決を念頭に議会の政治勢力と協議する」よう指示した。その後でルコルニュ氏は新内閣の組閣を提案する運びとなる。当面は現内閣が暫定的に職務を継続する。
39歳のルコルニュ氏は、2017年にマクロン氏が大統領に就任して以来、途切れることなく閣僚を務めてきた唯一の人物。バイル氏は、提案する予算案への支持を得るべく、信任投票を呼びかけ、敗れた。
同氏は26年の財政赤字を今年の見積もりの5.4%から4.6%に縮小させることを目指し、総額440億ユーロ(約7兆6000億円)規模の歳出削減・増税を提案していた。
フランスはユーロ圏で最大の財政赤字を抱えており、バイル氏によると、債務は1秒あたり5000ユーロのペースで増加している。また、債務の利払い費用が来年には750億ユーロに達するという。

ルコルニュ氏はバイル氏と同じ轍(てつ)を踏まないため、速やかに予算案を修正し、マクロン氏の対立勢力から少なくとも暗黙の支持を取り付ける必要がある。
極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏はSNSへの投稿で、ルコルニュ氏の起用はマクロン氏の最後の一手であり、新たな総選挙は不可避だと述べた。社会党も声明で、マクロン氏の手法に一切加担しないと表明した。同党のフィリップ・ブラン下院議員はBFMテレビで「これは議会への侮辱であり、有権者への侮辱だ」と語った。
今回の政治危機は、マクロン氏が台頭する極右勢力に対抗して中道勢力の結集を狙い、解散総選挙に動いてから1年後に起きた。結局、議会はRN、左派、マクロン氏を支持する中道の3ブロックに分裂。RNは下院で最大勢力を占めている。
ルコルニュ氏は中道右派・共和党出身で、国防予算増額やウクライナ防衛への前向きな関与に向けたマクロン氏の取り組みなど、フランスの軍事力強化路線を積極的に支持してきた。ルペン氏を含め極右勢力との関係も良好とされる。ただ、RN指導部はルコルニュ氏を支持する姿勢を示していない。
RNのバルデラ党首はSNSに「新首相について、幻想を持たず、行動や予算に関する方針、それらがわれわれのレッドラインに合致するかどうかで判断する」と書き込んだ。
原題:Macron Appoints Ally Lecornu as France’s New Prime Minister (2)、Macron Appoints Ally Lecornu as France’s New Prime Minister (1)(抜粋)
(3段落目以降に背景などを追加して更新します)
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