トランプ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)理事に指名したマイラン経済諮問委員会(CEA)委員長が4日、上院銀行委員会の指名公聴会に臨んだ。そこで発したのは、自らの過去の発言には縛られないという至って分かりやすいメッセージだ。

その一言だけでFRB理事に不適格とすべきだが、残念ながら恐らくそうならないだろう。

FRB理事に指名される前の段階で、マイラン氏は、ホワイトハウスとFRBとを行き来する「回転ドア人事」を批判し、ガバナンス(統治)改革を提唱した。2024年3月のエッセーではFRBについて、「テクノクラート(高度な知識を持つ行政官)と伝統的に見なされてきた指導部は、ホワイトハウスとFRB本部を自由に往来する非常に有能だが高度に政治的な人材に取って代わられた」と指摘していた。

それが今度は、トランプ政権のCEA委員長という立場で、退任したクーグラー氏の後任となるFRB理事への就任を認めるよう上院に求めている。昨年、自身があれほど批判した嘆かわしい「回転ドア」のシステムに加わったのだ。ハーバード大学で学んだ経済学者として、当初の見解の方が正しかったのではなかろうか。

マイラン氏が自ら批判した最もひどい例の一つにくみするのは、皮肉なことだ。FRB理事就任に当たりCEA委員長を辞任するつもりはなく、「無給の休暇」を取るだけだ。トランプ政権の一員であり続け、数カ月後に元の職務に復帰する可能性がある。現在と将来の上司が見ていると知りながら、マイラン氏がどのようにして独立した行動を取れると期待できるだろうか。逆らった者を解任し、報復さえ辞さないトランプ氏が上司ならなおさらだ。

「私の意見と判断は、マクロ経済分析と長期的責務にとって何が最善かに基づくだろう」とマイラン氏は公聴会で述べた。善意を前提にしても、回転ドアの問題は実際の意思決定だけでなく、世間の受け止め方の問題でもある。

各国・地域の何十年にもわたる経験は、国民の信頼に支えられ、独立した中央銀行がより低いインフレと持続的成長を実現してきたことを示す。高い信認を背景とする低インフレの好循環と、低い信認が招く高インフレの悪循環は、裏と表の関係にある。中央銀行が機能不全に見えるだけで、実際そうなったのと同じ悪影響が生じかねない。

不幸なことにマイラン氏の指名は単発の出来事ではない。トランプ大統領はパウエルFRB議長を積極的に攻撃し、一段の利下げを要求してきた。パウエル氏をおとしめる手段として、FRB本部改修費用の膨張問題を取り上げ、次にクック理事の解任を試みた。成功すれば、クック氏の後任とマイラン氏の就任により、7人の理事のうち4人(2018年に指名されたパウエル氏を含めれば5人)がトランプ氏に選ばれた理事となる。最大限楽観的に見ても、全てが非常にまずい状態に映る。

マイラン氏にとって、理事の職務は一時的かもしれない。任期途中で辞任したクーグラー氏の空席を埋めるものであり、トランプ氏がその後、14年の任期を務める別の人物を指名することが考えられる。マイラン氏がCEA委員長の職を手放したくないのは、そのためだろう。しかし、金利政策が重大な岐路に立つ今月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、彼の発言は重みを持つ。マイラン氏のポストの保証を望む姿勢は、議員らにとって、政治と金融政策の分離をさらに後退させることを正当化する理由にはならない。

経済学者がFRBと政治の間を行き来するのは、党派を問わず慣習となっている。オバマ政権下で財務省に勤務した後、FRB理事、バイデン政権の国家経済会議(NEC)委員長を務めたラエル・ブレイナード氏の例もある。

トランプ氏が24年の大統領選で勝利する以前、FRB理事の任期満了後、4年間は行政機関ポストに就くことを禁じる改革をマイラン氏らは提案していた。素晴らしいアイデアだ。

「FRBと行政機関との回転ドアを阻止することは、大統領の短期的な政治的利益に沿って行動するインセンティブ(動機)を減らす意味で重要だ」と主張し、「FRBの説明責任と民主的正当性を強化しつつ、日々の政治からの分離を維持する」他の改革も提言していた。

だが今のマイラン氏は、一連の提案が極めて微妙なバランスを意図した「パッケージ」であり、ばらばらにできないと説明する。偽善を正当化する都合の良い言い訳に聞こえる。CEA委員長を同氏が辞任しないなら、FRBの威信を守るために上院は承認を拒否すべきだ。

(ジョナサン・レビン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Miran’s Side Gig Should Disqualify Him From Fed: Jonathan Levin(抜粋)

翻訳コラムに関する翻訳者への問い合わせ先:東京 内田良治 ruchida2@bloomberg.net翻訳コラムに関するエディターへの問い合わせ先堀江広美 hhorie@bloomberg.netコラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:Miami Jonathan Levin jlevin20@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Candice Zachariahs czachariahs2@bloomberg.net

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.