日米関税交渉が決着し、政局が一気に流動化している。続投の意向を明確にしている石破茂首相は、秋に経済対策を策定する方針を表明。総裁選前倒しの是非を問う自民党議員への意思確認を週明けに控え、党内の駆け引きが続く。

大統領令の署名を受け、石破首相は5日、日米双方が合意を誠実かつ、速やかに実施することが大事で経済や雇用への影響極小化に向け万全を期すとの考えを示した。続投方針に変わりないかを問われ、「それは別に関りがあることではない」と述べた。

同日夕には、参院選の公約に掲げた物価高対策としての給付金を巡る与野党協議や日米関税措置の実施状況などを見極めながら「この秋に経済対策を策定する」と発言。閣僚への具体的な指示は改めて行うとしている。いずれも官邸で記者団に語った。

日経平均株価が一時4万3000円まで上昇し、市場では関税交渉決着が好感された。功績として一定程度の政権浮揚効果が予想されるが、首相が続投理由の一つに挙げていたこともあり、これを契機に退陣に踏み切るのではないかとの見方もある。一方で、自民党内では総裁選前倒し実施による「石破おろし」の動きは続いている。

明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは、国民の支持率という点ではプラスに働くかもしれないと話す一方、「関税交渉の決着を自身の花道とする可能性もあるのではないか」と指摘する。

過半数の攻防

8日には、総裁選の前倒しの是非について所属議員らの意思確認が行われる。日本経済新聞が議員と都道府県連の動向を調査した結果、4日時点では賛成116、反対46、保留・未定・不明が180だった。前倒しには172人の要求が必要で、現時点で大勢は判然としない。

麻生太郎・党最高顧問は3日の会合で「前倒しを要求する」と明言した。鈴木馨祐法相も5日、自身のX(旧ツイッター)を通じて閣僚で初めて臨時総裁選実施を求める文書に署名することを明らかにした。

こうした動きがある一方、首相側近の赤沢亮正経済再生担当相は4日、訪米前の取材で「総裁選の前倒しは必要ない」と発言。共同通信によると、平将明デジタル相も5日の会見で、麻生氏について「派閥の領袖が発言して流れをつくると、党が先祖返りしてしまう」と批判した。

駆け引きが顕在化する中で、日米関税交渉の決着が、態度を決めかねている議員の心理にどう影響を及ぼすかが注目となる。

動向が注目される小泉進次郎農相は5日の閣議後会見で「党内の一致結束につながる環境を作らなければならない。その思いを大切に判断していきたい」と述べた。加藤勝信財務相は同日の会見で、総裁選前倒し要求への対応について「コメントは控える」とした。

(石破首相の発言に関する詳細を追加して更新します)

--取材協力:氏兼敬子.

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