(ブルームバーグ):5日の日本市場では株式が続伸。トランプ米大統領が日本との貿易合意を実施する大統領令に署名し、買い安心感が広がった。円は実質賃金のプラス転換を材料に1ドル=148円台前半に上昇。米国債の上昇を受け、長期金利は8月中旬以来の水準に低下した。
大統領令署名により、米国は大半の日本からの輸入品に対し最大15%の関税を課すことになり、自動車関税は現在の27.5%から引き下がる。株式は自動車など輸出関連を中心に買いが先行し、日経平均株価は前日に続き一時600円以上上げる場面があった。
レイリアント・グローバル・アドバイザーズのポートフォリオ・マネジメント部長、フィリップ・ウール氏は「15%の関税率が確定したことは実質的に最後のリスクを取り除くものだ」とし、「関税リスクが最も重くのしかかっていた自動車セクターにとって朗報だ」と述べた。
一方、日本時間夜に注目の米雇用統計の発表を控え、市場では様子見ムードも広がる。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは、9月から米利下げが再開されれば深刻な景気後退は回避され、日本経済や企業業績にも好影響だと指摘。ただ、雇用統計が大きく下振れた場合、米景気の急速悪化懸念からいったん株安になりやすいとみている。
株式
株式市場では、米大統領令の署名を受け自動車株が軒並み上昇。電機や精密機器など輸出関連、鉄鋼やゴム製品など素材株、商社や海運株も高い。
トヨタ自動車株は2%上昇し、TOPIXの上昇寄与度トップ。TOPIX輸送用機器指数は一時2.8%上げ、約8カ月ぶりの日中高値を付けた。
りそなホールディングスの武居大暉ストラテジストは、自動車関税の問題が一つ進んだことで「外需中心に物色されている」と語った。
主要株価指数は高く始まった後、伸び悩む場面もあった。SMBC信託銀行の山口真弘投資調査部長は、自動車関税引き下げや米利下げ期待、石破茂首相の退陣観測といった日本株の追い風については「既に織り込まれた部分が大きく、さらに上値を追うには材料不足」と言う。
楽天証券の土信田雅之シニアマーケットアナリストは、自動車株について「懸念の後退で買い戻すことはできるが、現時点で買い上がるのは難しい」と指摘。今後は関税の影響度などにより「セクター内で優勝劣敗が決まっていく」とみている。
為替
円相場は7月の実質賃金が7カ月ぶりにプラスに転じたことを受け、買いが優勢となった。日米貿易合意実施への大統領令署名に対する反応は限定的だった。
外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、現金給与総額も予想を上回り、「日本銀行が利上げをしやすくなるというムードが少し強まるかもしれない」と話した。ただ、米雇用統計の発表を控え、積極的な取引はしづらいとも言う。
8月の米雇用統計で非農業部門雇用者数は7万5000人増と前月(7万3000人増)並みが見込まれている。野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストはリポートで、下振れれば米金利低下と株安のリスクが大きく、「対円でのドル安圧力が顕在化しやすい点に注意が必要だ」と指摘した。
金利スワップ市場が織り込む9月の米利下げ確率は約100%、10月までの日銀利上げ確率は30%台となっている。
週明け8日には自民党の臨時総裁選実施の意思確認が行われる。外為どっとコム総研の神田氏は、麻生太郎元首相の賛成により総裁選が前倒しされる可能性が高まっており、「政局の先行き不透明感から円売り・ドル買い圧力が強まり、1ドル=150円を試しにいく可能性がある」との見方を示した。
債券
債券は上昇。米国で労働市場の減速を示す経済指標を受けて長期金利が低下した流れを引き継いだ。前日に入札を波乱なくこなした30年債中心に買いが入った。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚崇広シニア債券ストラテジストは「海外長期金利が低下したことや今週前半に超長期債主導で売られた反動の買いが入っている」と指摘した。
毎月勤労統計調査の影響は限定的だった。SMBC日興証券の田未来シニア金利ストラテジストは、共通事業所ベースの所定内給与が少ししか増加しておらず、初期反応としてやや売りもあったが、すぐに戻したと指摘。「振れが大きい統計なので数カ月のデータで見た方がいい」と話した。
新発国債利回り(午後3時時点)
この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。
--取材協力:堤健太郎.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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