元日本銀行調査統計局長の関根敏隆一橋大学国際・公共政策大学院教授は、日銀が米関税政策の影響を見極めるのには時間がかかるとし、市場が有力な時期の一つとみている10月の追加利上げは難しいとの見解を示した。

関根氏は4日のインタビューで、仮に現職の調査統計局長として米関税の影響を10月までに見極めてくれと言われれば「ノーと言わざるを得ない」と述べた。実体経済面から10月利上げは困難としつつ、為替や政治などの動向も踏まえた市場の織り込みを「間違っているというつもりもない」とも語った。

米関税政策の影響の見極めに相応の時間がかかるとみる理由について、トランプ政権では合意事項ですら先行きどうなるか分からないと説明。その意味で市場は楽観的とし、「そう簡単に霧は晴れないことをマーケットも理解してほしい」と述べた。

ブルームバーグが8月に実施したエコノミスト調査では、最多の4割超が次の日銀の利上げ時期を10月と見込み、年内予想は53%だった。関根氏は、トランプ政権の関税政策に伴う不確実性は、市場が想定している以上に大きいことを強調した。

不確実性

トランプ米大統領は4日、日本との貿易合意を実施する大統領令に署名した。これによって合意の履行が懸念されていた日本からの輸入自動車に対する関税は、7日以内に現在の27.5%から15%に引き下げられることになる。

関根氏は、日米関税交渉が全て決着し、自動車を中心に日本企業が来年度にかけて賃上げを含めてどう対応するかが見通せる状況になれば、12月や来年1月にも日銀の利上げが「可能かもしれない」と語った。米国中心に世界経済が持つのであれば、「日銀も利上げの道に早く戻りたいと考えているだろう」との見方を示した。

不確実性が大きい中で企業の設備投資や価格設定は困難な環境が続くと見込まれ、金融政策も「軽々しく動くことはできない」と指摘。企業がコストカットを優先して賃上げに消極的になれば、デフレ心理が復活する可能性があるとし、「デフレに二度と戻らないことを最優先と考えている日銀は甘受できないだろう」と述べた。

 

インフレ

足元の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は、3年以上にわたって日銀が目標とする2%を上回って推移している。日銀は一時的な変動を除いた基調的な物価上昇率が2%に達していないことを理由に、利上げを急がない姿勢を示している。

関根氏は、現在の0.5%程度の政策金利はインフレ動向に比べて低過ぎるとみている。それでも日銀が利上げに踏み切れないのはトランプ政権の政策が原因であり、「あまりにも世の中が見通しづらいので、次のステップに進めないと素直に説明すればいい」と指摘。物価水準を巡って「神学論争をしても意味がない」と語った。

関根氏は1987年に東大経済学部を卒業し、日銀に入行。黒田東彦前総裁の下で2015年から4年間、日銀のチーフエコノミストに位置付けられる調査統計局長を務めた。19年に金融研究所長に就任し、20年から現職。

(発言の詳細を加えて更新しました)

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