4日まで行われているオンラインオークションで、ピカソの静物画、ジャンミシェル・バスキアの2作品、ダイアン・アーバスの写真作品が売りに出されている。そのうち3点は、俳優レオナルド・ディカプリオ氏の所有物だった。さらに興味深いのは、どの作品も、世界最大級の金融犯罪に結び付いている点だ。

2009-15年にマレーシア政府系投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)から不正に45億ドル(約6700億円)が流用された事件の被害者であるマレーシア国民に、オークションから最終的には数百万ドルが還元される見通しだ。

割安

ニューヨークのサザビーズやクリスティーズといった格式ある会場ではなく、このオークションは、ガストン&シーハン・オークショニアーズを通じて行われている。

テキサス州フラッガービルにある家族経営の同社は、地元警察に押収された車や財産を専門に扱い、1MDBの押収品を提供している米連邦保安局とも契約している。過去には、史上最大の金融詐欺事件を起こしたバーナード・マドフ受刑者(故人)の名前が入ったサテン製のニューヨーク・メッツ・ジャケットも競売にかけられた。

知名度では劣るこのオークションプラットフォームは、高級美術品を割安で手に入れたい買い手には好都合かもしれない。オンラインオークションでは、最終局面で価格が急変することが多いが、ピカソ作品の最高入札額は3日午前時点で、以前の落札額より約50万ドル、バスキア作品の一つは300万ドル強安かった。アーバスのプリントについては、最高入札額が以前の購入価格を85%下回っている。

ガストン&シーハンの担当者は、作品の価格設定についてのコメントを拒否した。米連邦保安局の広報担当者も、このオークションに関するコメントを控えた。

いわく付き

今回売りに出された品々は、1MDB事件の資金回収を目指す画期的な取り組みの一環として押収された資産の一部に過ぎない。汚職やマネーロンダリング(資金洗浄)が絡むこの巨額スキャンダルは、セレブを巻き込み、マレーシアのナジブ元首相夫妻、ゴールドマン・サックスの元幹部2人が投獄される事態となった。

事件の首謀者とされるマレーシアの投資家、劉特佐(ロウ・テク・ジョー)被告は逃亡中で、中国に潜伏しているとみられる。米検察によれば、ロウ被告は1MDBから盗まれた資金を使って豪勢な生活を送り、ディカプリオ氏やモデルのミランダ・カーさん、インフルエンサーのパリス・ヒルトンさんといった有名人に接近した。米政府によると、ロウ被告とその仲間は不正資金を使い、2013年だけで競売で約1億3700万ドル相当の美術品を購入していた。

米司法省は今年、09-15年にロウ被告らによって流用されたとされる45億ドルのうち、これまで17億ドル強相当の資産を回収したと発表した。過去に売却された1MDB事件に絡んだアートには、1927年の映画「メトロポリス」の希少なポスターや、アンディ・ウォーホルの絵画「ラウンド・ジャッキー」がある。

今回競売にかけられている作品のうち3点は、ロウ被告が購入し、その後、映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で主演を務めたディカプリオ氏に贈ったものだ。この映画は、1MDBから盗まれた資金を使いロウ被告が支援したとされている。ディカプリオ氏は、マレーシア政府が返還請求訴訟を起こしたことを受け、2024年に自発的に作品を返還した。競売について、同氏の広報担当者は問い合わせのメールに返答しなかった。

サザビーズでの勤務経験もある元連邦検察官で、アートリスク・グループの共同創設者ジェーン・レビン氏によると、美術品のいわく付きの来歴は、むしろ買い手にとっては利点になる可能性がある。米政府が売り手であるという事実が、買い手側には安心材料になるという。

レビン氏は「政府から購入するので、マネーロンダリングの心配をしなくていい。作品には複雑な過去があるかもしれないが、これは正当な販売だ」と語った。

原題:DiCaprio’s Basquiat Is at $3 Million Discount in 1MDB Auction(抜粋)

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