おわりに~多様な単身世帯の消費、社会変化の先行指標としても重要

本稿では、単身世帯の消費について食生活と住生活を中心に分析した。食生活では、二人以上世帯と比較して「外食」や「調理食品」志向が高く、基本食材への支出割合が低いことが特徴的であった。

特に若年単身男性では食費の約7割が外食・調理食品に充てられており、利便性重視の姿勢が際立っていた。

一方、高齢層では外食が大きく減り、代わりに「魚介類」や「野菜・海藻」などへの支出が増えるなど、自炊中心の食生活が見られた。

性別で比較すると、男性は外食の割合が高く、女性は相対的に基本食材への支出割合が高い傾向にあった。

ただし、若年女性でも食費の6割は外食・調理食品であり(壮年女性は4割強)、社会進出に伴う時短ニーズ、消費環境の利便性向上といった要因が背景にあると考えられる。

さらに、5年前と比較すると、物価高によって外食支出が減少する一方で、調理食品や基本食材の支出が増加し、効率性と経済性を両立させた食生活への適応が進んでいた。

住生活では、二人以上世帯の持ち家率が8割超に達するのに対し、単身世帯では若年層で1割前後にとどまり、賃貸住宅志向が際立っていた。

単身世帯でも年齢とともに持ち家率は上昇するものの、同年代の二人以上世帯と比べれば低水準にある。

背景には、結婚や家族形成に合わせた住宅取得の傾向、一人での住宅ローン負担の難しさ、転居や介護への備えとして流動性を重視する姿勢がある。特に若年・壮年層では、キャリア形成や転職に伴う地域移動の可能性から賃貸住宅の柔軟性が選好されている。

さらに、高齢女性で持ち家率が高いことや、住居費の内訳が男性は家賃、女性は修繕維持費の割合が高いなど、性別による違いも確認された。また、若年単身女性では、可処分所得の増加を背景に住居費が増加していた。

以上の結果は、単身世帯の消費行動が一様ではなく、性別や年代によって異なる多層的な構造を持つことを示している。また、二人以上世帯と比較すると、単身世帯は物価高や社会変化の影響をより敏感に受けやすい点も特徴的である。

実際、物価上昇を背景とした外食から中食・内食へのシフトは、単身世帯で特に顕著に現れており、単身世帯が社会変化や経済環境の影響を先行的に映し出す存在とも言える。

さらに、単身世帯には「二面性」がある。すなわち、可処分所得が増える層と減少する層が併存し、その格差が消費行動の多様化を生んでいる。

経済力を背景に新たな市場を形成しつつある若年女性層や、高齢単身世帯における調理食品需要の拡大は、今後の消費市場の可能性を広げる。一方で、物価高や所得減少に直面しやすい層も存在しており、脆弱性への目配りも欠かせない。

今後、単身世帯が全世帯の4割を超える社会では、こうした多様性を理解した政策立案や商品・サービス開発が一層重要になる。

政策面では、単身世帯を一括りにせず、若年層の所得増加に伴う新たな需要、高齢層の健康志向、女性単身世帯の増加といった層別の特徴を踏まえた対応が必要である。

たとえば、高齢単身層には宅食・健康サービスの拡充や住宅改修支援、若年単身層には賃貸住宅の安定供給や住環境改善といった施策が考えられる。

市場面でも、外食・中食産業や都市部の賃貸住宅市場など、単身世帯の動向に大きく左右される分野では、年齢や性別、所得水準に応じたきめ細かなアプローチが求められる。

単身世帯の消費実態を丁寧に把握し続けることは、消費市場の将来像を描き、持続可能な社会の形成につなげていくうえで不可欠である。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子)

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