(ブルームバーグ):債券には債務不履行のリスクが常にあるが、それと引き換えに投資家が現在受け取るリターンは数年ぶりの低水準だ。経済を巡る楽観と、過剰な資金が少数の証券に殺到していることで、市場にゆがみが生じている。
米国債など安全と見なされる債券に対する、リスクが比較的高い債券の上乗せ利回りを示すクレジットスプレッドは、世界的にじりじりとした低下が続いている。金融市場のボラティリティーが抑えられているため、社債や新興国通貨など高い利回りが見込める資産への投資が後押しされている。
世界の投資適格級企業によるドル建て社債と米国債のスプレッドは、1990年代後半のドット・コム・バブル以来の小ささだ。その他ティア1(AT1)債など銀行債の中でも特にリスクの高いとされる債券は、過去にほとんど例がなかったほどの高値圏で取引されている。
さらに、一部の社債利回りが米国債を下回る事態も初めて発生した。
経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)改善を示す兆候がいくつか見られることに加え、リターンが計算できる債券を求める投資資金の流入が相次いでいることを、バンカーや運用者は指摘する。過去10年の基準で言えば名目上の利回りは高く、比較的高い利率を確保したい年金や保険会社などの投資家を引きつけている。
ダブルライン・キャピタルのグローバル先進市場クレジット責任者、ロバート・コーエン氏は「金融資産を追い求める資金があまりにも多過ぎる」と論じ、「割安な資産を全員が探しているため、あっという間になくなってしまう」と述べた。

27日の取引で、投資適格社債のリスクプレミアムは81ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、2007年以来の低水準付近だった。この数値の過去5年の平均は116bpに上る。
この低下には、ファンダメンタルズの変化という要因もある。利払いや支払期限を履行する企業の能力に全く問題はないことをさまざまな指標が示唆している上、主要国・地域の大半の中央銀行は金利を引き下げ、借り手の債務負担が軽減された。
これに加え、テクニカル的な要因も働く。ここ数年の名目利回り上昇で、それに目を付けた債券投資の戦略が急増し、需要が供給を上回るようになった。
パッシブ運用のクレジット・インデックスファンドや利回り重視の満期固定型ファンドが増加し、スプレッド縮小を後押ししている公算が大きい。保険会社は社債をパッケージ化して組み込んだ年金商品を販売しており、需要をさらに押し上げている。
割高なバリュエーションを警戒する向きにとって、今は我慢が試されている。多くの資金が少ない資産を追う危険な相場に関わらない選択肢もあるが、その場合、ポートフォリオ全体のリターンが相対的に低くなってしまうリスクを抱える。
FOMOが優勢
今のところ、FOMO(乗り遅れることへの恐怖)が優位に立っている。こうした感覚は、過去最高値に上昇した世界の株式指数や金、ビットコインなど他の資産とも共通している。
ロンドンを拠点とするネッドグループ・インベストメンツのシニアファンドマネジャー、アレクサンドラ・ラルフ氏は「クレジット市場の多くは割高に見えるが、いかなる形でも利回りを高めたいと考えている買い手は多い」と指摘。「利回りを求める投資家にとって、公的で流動性があるクレジット市場はまだましな投資先だ」と述べた。
JPモルガン・チェースによると、米国債に対する新興国ドル建て債のリスクプレミアムは今月初め、2013年以来初めて260bpを割り込んだ。
アジアの投資適格級企業のドル建て債スプレッドは今週初めに60bpと、過去10年の平均の半分以下となり過去最低に縮小した。ブルームバーグの指数によると、投資適格債に対するジャンク債の上乗せ利回りも、過去最低付近にある。
上場ヘッジファンド会社で世界最大のマン・グループで新興市場債券の戦略責任者を務めるギレルモ・オッセス氏は、こうした無差別な買いを懸念する。
「信用に足る借り手と問題を抱えていそうな借り手の区別を市場がやめてしまえば、経済の実態ではなく流動性の状況がバリュエーションを動かしてしまう」とオッセス氏は述べた。
こうした状況は、米国の雇用関連指標やサービス業の悪化などで最近見られた景気減速の兆しに対して、投資家が損失を被りやすくなっていることを意味する。
アバディーン・インベストメンツの債券投資ディレクターで、市場のベテランであるルーク・ヒックモア氏は、来年には米国経済の腰折れが始まる公算が大きいと予想、米国債と投資適格社債のスプレッドは今後12カ月で130-140bpに拡大する可能性があるとみている。ブルームバーグの指数に従うと、このスプレッドは26日時点で76bpだった。
「今は全てが素晴らしく、スプレッドはさらに縮小する可能性もあるが、極めて危うく感じられる」とヒックモア氏は語った。
原題:Bond Market Bonanza Leaves Investors With Razor-Thin Safety Net(抜粋)
--取材協力:Sam Potter、Finbarr Flynn、Kerim Karakaya.
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