日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収により、同社が長期ビジョンとして掲げる年間粗鋼生産能力1億トンと一過性要因を除いた実力ベースの事業利益1兆円の達成が射程距離に入ってきた。

日鉄の森高弘副会長は都内での28日のインタビューで、欧州アルセロール・ミタルとのインドでの合弁企業でこれまでに意思決定をした拡張案件やUSスチールを通じた米国での製鉄所新設などにより、粗鋼生産能力の目標達成は「もう時間の問題だ」との考えを示した。

また、USスチールによる収益貢献も今後拡大していくことを見込んでいることから、事業利益の目標である「1兆円もそんなに遠くなくいけるだろう」と話した。

日鉄は2019年に社長に就任した橋本英二氏(現会長兼最高経営責任者)の指揮の下で進めた値上げや製鉄所の閉鎖、高炉の休止などの構造改革により収益力が改善した。足元では中国の過剰生産・輸出により再び厳しい事業環境に置かれているが、米大統領選に伴い政治問題化し一時は頓挫しかかったUSスチール買収が6月に完了したことで、生産量や利益目標を追求する体制が整いつつある。

目標の達成に向けさらなる合併・買収(M&A)も、伸びが期待でき、日鉄の製品や技術力が生かせる市場であるといった条件に当てはまる案件については今後も積極的に行っていく方針だ。森副会長は、「当然いいものについてチャンスがあればそれをやっていく」と意欲を示した。

また、ブリッジローン(つなぎ融資)で調達した約2兆円でUSスチールの買収を行った日鉄は1年以内の借り換えと返済を予定しており、同社の今後の資金調達も注目を集めている。日鉄はこれまで5000億円のコミット型劣後特約付タームローン契約の締結などを明らかにしているが、一部は増資で賄う可能性があるとの指摘がされている。

森氏は買収完了から1年後となる来年6月までの間に最適な時期と手法で資金調達を行うべく「準備は当然している」と述べた。資本調達は「一つの候補としてある」とした上で、仮に行う場合は「既存株主の利益を阻害するようなことはしない」との考えを改めて示した。

USスチールとの相乗効果(シナジー)発揮に向け、日鉄は特定した課題に対処する「100日計画」の作業を進めている。森氏によると、9月にも最終的な計画を策定し、年内に発表する予定の日鉄の次期中期経営計画に盛り込む方針だ。

今月11日にはUSスチールのモンバレー製鉄所(ペンシルベニア州)で爆発事故が起こったものの、100日計画や同工場への22億ドル(約3250億円)の投資計画に影響はないと森氏は言う。人間が関わる以上頻度は少ないが事故は「起こり得る。それがたまたまそこで今回起こった」とした一方で、操業の安定性の面で改善の余地がある可能性があると認めた。

日本経済新聞によると、日鉄は米国で大型電炉の新設を計画している。USスチールが29年以降の稼働を目指し、40億ドルを投資する想定だという。

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