日本ではマクドナルドのおもちゃ付きメニューは「ハッピーセット」と呼ばれている。米国では「ハッピーミール」だ。こうした違いはあるが、太平洋の両岸で子どもにも大人にも愛されているのは同じだ。ただ、大人気の理由が不適切な場合もある。

日本マクドナルドはポケモンのトレーディングカードのプロモーションを巡り、消費者庁から販売方法を改善するよう要望され、キャンペーンの見直しを迫られた。

このプロモーションは一見無害に思えたが、オンラインでカードを転売しようとする人々が店舗に殺到。食べられずに捨てられたハンバーガーの写真がSNSに次々と投稿され、子どもたちは店舗での品切れに涙をのんだ。

同社が今年、こうした問題に見舞われたのはこれで2度目だ。前回は人気キャラクター「ちいかわ」を使ったキャンペーンで混乱が生じた。結果的に売り上げは急増し、マクドナルド側としては内心、宣伝効果があったと考えているかもしれないが、その反動が大き過ぎ、漫画やアニメでおなじみの「ONE PIECE(ワンピース)」とのコラボ企画は頓挫した。

マクドナルドのこうしたトラブルは日本だけに限らない。1990年代、米国では限定のぬいぐるみ「ビーニーベイビーズ」付きハッピーミールでけんか騒ぎが頻発。2017年にはアニメ「リック・アンド・モーティ」をきっかけにリバイバルされた限定の「四川風ソース」にファンが殺到した。

これらの問題に共通するのは、需要の見誤りだ。しかし今、こうした過熱の予測は一段と難しくなっている。そこには2つの要因が重なる。

一つはコレクション熱の高まりだ。Z世代はデジタル時代に育ちながらも、「所有せずに幸せになる」という考え方に反発する。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期には、スニーカーからレゴに至るまで、コレクション熱が一気に広がった。

新型コロナ禍を経た今は、日本のレトロゲーム店から訪日観光客が商品を根こそぎ購入している。ポケモンカードなどは収集性と換金性を備えており、犯罪が少ない日本でも販売店が襲撃される事件が何度か起きている。

新しい時代

もう一つは転売の台頭だ。かつて在庫リスクが大きかった転売という行為も、「メルカリ」のようなフリマアプリの普及で容易になった。

教科書的には、転売は需給の価格差を利用し、市場に流動性を提供する「裁定取引」として機能する。支払意思額(WTP)を利用して利益を得るという視点は金融市場では一切とがめられない。列に並びたくないなら「お金を払って頼むのもあり」だと感じる人もいるだろう。

しかし転売行為は概して嫌われる。2020年にソニーグループの家庭用ゲーム機「プレイステーション5」発売時に長期間の品薄を招いた原因が転売行為だとされているし、テイラー・スウィフトやオアシスの公演チケット入手を難しくしたとも批判されている。

それでも、必要に迫られれば、誰であれ頼ることもあるだろう。私自身も、名古屋で9月に行われるボクシング界の至宝、井上尚弥選手の試合のチケットを買い逃し、メルカリなどで探すつもりだ。

もちろん、経済学で全て片が付くわけではない。6歳児にWTPについて説明するのは難しい。それが食品ロスにつながるのなら、なおさら不快感を伴う。

転売を防ぐ容易な解決策はない。トレーディングカードは、誰でも簡単に手に入るようにすれば価値が薄れ、プロモーション自体に意味がなくなる。

購入制限は一つの策だが、実行は難しい。任天堂は「スイッチ2」で、初代スイッチのユーザーに限定して購入を認め、プラットフォームと連携して転売業者の出品を自動的に削除することで、ある程度成功を収めた。ただそれでも、もしスイッチ2が気に入らなかったら、売る自由はないのかといった問題は残る。

こうした事態は、ソーシャルメディアなどで全てがつながるようになったことで、ごく日常的な企業活動でさえ複雑さが増していることを示している。これまでフライドポテトの塩加減だけを考えていればよかった経営陣にとって、この種の対応はもはやビジネスを続ける上で必須となっている。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:McDonald’s Pokemon Frenzy Has a Dark Side: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.net

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