日本銀行の中川順子審議委員は28日、金融政策運営について、米国の関税政策などを巡る不確実性が高い状況を踏まえてデータや情報を基に適切に判断していく考えを示した。山口県金融経済懇談会で講演した。

中川氏は、各国の通商政策などの今後の展開やその影響を巡る不確実性が高い状況が続いていると指摘。その上で「今後明らかとなるデータや情報を引き続き丁寧に確認し、適切に政策を判断していく」と語った。

日銀の中川順子審議委員

現在の実質金利の水準を踏まえると、 日銀の経済・物価の見通しが実現していけば、「それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との従来の方針も改めて示した。

日銀は7月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%程度に据え置く一方、2025年度の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比見通しを2.7%上昇と大幅に上方修正した。9月に次回会合を控える中、中川氏の発言は従来の日銀の見解に沿う形となった。

物価の見通しに関しては、関税の影響などによる成長ペースの鈍化の影響を受けて伸び率がいったん鈍化するものの、「賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持される」と指摘。27年度までの見通し期間後半には、物価安定目標とおおむね整合的な水準で推移すると述べた。

午後の記者会見では、関税政策の影響に関する不確実性について、7月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)の表現を4月と比べると「少しは下がった」と説明。その上で、「利上げできる環境という意味では、4月よりは少し改善の傾向」との認識を示した。

物価高への政策対応が遅れるビハインド・ザ・カーブに関しては、「そのリスクはあるものの、現時点でそれほど高くはない」と述べた。

金融政策運営では、四半期ごとに実施している日銀の企業短期経済観測調査(短観)は「極めて大事な調査だ」と指摘。10月1日発表の次回短観が利上げ判断に必要かを問われたのに対しては、その時点での直近の調査結果を踏まえた上で決定会合で判断していくとの考えを示した。

他の発言

  • 企業収益は米関税の影響で減少へ、その後は改善基調復すと想定
  • 個人消費は食料品価格上昇が下押し要因となり横ばいの可能性高い
  • 関税の不確実性、企業・家計のコンフィデンスに影響も
  • 供給側要因で物価大幅上昇なら経済の下押しにつながる

植田和男総裁は23日、米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたシンポジウムで、日本の賃金動向について「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状態が続き、賃金には上昇圧力がかかり続ける」との見解を示した。

総裁が持続的な賃金上昇圧力に言及したことを受けて、金融市場では年内の利上げ観測が強まっている。翌日物金利スワップ(OIS)市場では、10月までに0.25ポイントの利上げが行われる可能性を足元で5割程度織り込んでいる。

(8段落目に記者会見での発言の詳細を追加して更新しました)

--取材協力:関根裕之.

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