三菱商事は27日、事業性の再評価を進めていた秋田・千葉県の3海域での洋上風力発電事業を取りやめると発表した。大手の撤退で、今後のプロジェクトを含めて先行きの不透明感が増している。

発表資料によると、コストやスケジュール、収入などあらゆる面で取り得る手段や可能性を検討したが、実行可能な事業計画を立てることは困難との結論に至ったという。損失はすでに大部分を計上済みで、追加の損失が生じる場合でも限定的となる見込みという。

中西勝也社長は同日都内で開いた会見で、建設費が入札時の見込みから2倍以上に膨らみ、将来さらにコストが膨らむリスクがあったと説明。「断腸の思い」と表現した。三菱商が率いる連合の1社である中部電力は撤退を受けて、今期(2026年3月期)に170億円程度の損失発生を見込んでいると発表した。

中西氏は会見後、武藤経産相に撤退を報告。武藤氏は「まだ信じられない」と語り、撤退は洋上風力に対する社会の信頼そのものを揺るがしかねないと指摘した。3海域については再公募するとし、三菱商には「社会の公器としての責任」を持って地元関係者と対話するよう求めた。

海外でも洋上風力事業は厳しい環境に置かれている。トランプ政権は、米国メリーランド州沖で計画されているプロジェクトの開発阻止に向けて動いている。一方、日本政府は第7次エネルギー基本計画で、風力が電源構成に占める比率を23年度の1.1%から40年度に4-8%程度に引き上げるとしており、今後北海道松前沖と檜山沖の2海域での公募を計画する。逆風が吹く中、三菱商連合が予定していた3海域で計約170万キロワットの発電容量の穴埋めや、企業の収益確保の仕組み作りが欠かせない。

エネルギー業界に詳しいみずほ銀行産業調査部の田村多恵氏は、実際に撤退すれば「今後の入札案件を検討しようとしている事業者にも影響が出てくる」と話す。落札企業が撤退した理由や、入札時の想定からの事業変化の程度などについて政府は分析し、環境変化に適応できる制度設計を検討してほしいとも述べた。

また大和証券の西川周作アナリストは事前の撤退報道を受けて、ほかのエネルギー事業者にとって再公募の案件獲得などにつながる可能性があるとした上で、国内洋上風力の収益性の厳しさを示すもので、リターンは必ずしも明確ではないとも指摘していた。

政府資料によると、洋上風力発電にかかる主な資材の価格は、2018年比で鉄鋼が倍増し、通信ケーブルも8割増となっている。コスト増を売電価格にどれだけ転嫁し、利益を生み出せるかで、すでに参入した各連合は頭を悩ませている。

洋上風力は政府の公募に入札した企業連合の中から価格や実現性で高く評価されたグループが採択される。三菱商の後に採択された企業では、事業者が売電先や価格を交渉によって自由に決められる「FIP」という支援策の適用が前提となっており、売電先との交渉は厳しさを増している。

一方、三菱商の3海域は、市場価格の変動に関わらずに決まった額で売電する「FIT」という支援制度の活用が前提だった。長期的な収益の見通しを立てやすくして企業の参入を促す仕組みだ。ただ、三菱商連合が他の連合よりも圧倒的に安い売電価格で入札したことで、資材高騰などの影響を受けやすくなり、採算性の悪化を招いた。

制度追いつかず

政府では有識者会議で三菱商事にFIPへの転換を認めるかどうかの議論も進んでいた。中西氏は会見で、FIPへの転換を前提とした売電先との対話を独自にしてきたが、仮に転換したとしても採算が取れないと判断したと明らかにした。

コスト増の主な要因では、風車を挙げた。技術競争やウクライナ危機などでメーカーが軒並み値上げしたことが背景にあったと説明し、「主要機器についての精査をもっと感度を持ってやっていればというのが教訓の一つ」とした。一方、急激なインフレへの対応は「制度が追いついていない実態もある」と述べた。

ブルームバーグNEFのアナリスト、ウメル・サディク氏は、「日本は既に2030年の再生可能エネルギー目標達成が困難な状況にあったが、今回の動きでさらに軌道から外れる」と指摘した。

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