(ブルームバーグ):IT業界の億万長者ナラヤナ・ムルティ氏のファミリーオフィスが、インドのスタートアップ投資に対し慎重姿勢を強めている。背景には、投資回収を迫られたファンドによって大幅な値引きでの売却が進んでいる実態がある。
ファミリーオフィス、カタマラン・ベンチャーズは、インドのITサービス会社インフォシス創業者であるムルティ氏が保有する13億ドル(約1900億円)の資産を運用する。
カタマランのディーパク・パダキ社長はインタビューで、成長が鈍化し、収益化の道筋が明確ではない、あるいは進展が乏しい中堅スタートアップが、30-40%の値引きで売却されていると述べた。
「これらの企業に投資していたファンドは、運用期間の終了が近づいているため、持ち分の売却を進めたがっている」とパダキ氏は語った。「プライベートエクイティーやセカンダリーファンドにとっては投資機会となるかもしれないが、当社には大規模な再建支援が必要な企業を引き受ける余力はない」とも述べた。
インドのスタートアップ市場は世界最大級だが、成長に苦しむ企業では企業価値の急落が相次いでおり、投資家の目も厳しさを増している。
例えば、ソフトバンクグループが出資するオヨ・ホテルズは2019年には企業価値が100億ドルに達し、インド有数のスタートアップとされていた。しかし、激しい競争により業績が低迷し、企業価値も低下。現在は回復傾向にあるが、株式上場はたびたび延期されている。
ベイン・アンド・カンパニーによると、インドでは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中にベンチャーキャピタルや成長企業向けの資金調達が急増し、21年には385億ドルとピークに達した。その後は熱気がやや冷めたものの、取引額は依然としてパンデミック前の水準を上回っており、24年には137億ドルと前年比で増えた。
インドのファミリーオフィスやベンチャーキャピタル、超富裕層が初期段階の企業や起業家に資金を投じ続けていることがうかがえる。
しかし、カタマランは慎重姿勢を取り、24年に入ってから投資したのはわずか2社にとどまる。高成長かつ収益性のあるスタートアップの企業価値は割高過ぎると考えている。
原題:Family Office to Billionaire Murthy Warns on Startup Valuations(抜粋)
--取材協力:Sankalp Phartiyal、Anirban Nag.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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