注目のジャクソンホール会合を控え、ウォール街は静かな月曜となった。地政学的要素も注目された。トランプ米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、この後にロシアのプーチン大統領を交え、和平を目指す3者会談を取りまとめたいと語った。

これまで相次いで最高値を更新してきたS&P500種株価指数は、この日はレンジもみ合い。トランプ政権はインテルの株式約10%を取得する方向で協議していることが、関係者の情報で分かった。今週はウォルマートやターゲットといった小売り大手の決算が発表され、トランプ関税初期による消費者への影響が明らかになる。

ニューヨーク証券取引所

カンザスシティー連銀がワイオミング州ジャクソンホールで主催する年次シンポジウムは、21日に開幕。主要国・地域の中央銀行総裁が一堂に会する。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は毎年、この場を重要な政策発表の機会としてきた。

パウエル議長は22日に予定されている講演で、金融政策の新しい枠組みを発表すると見込まれている。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)について何らかの示唆を与える可能性もある。

モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのクリス・ラーキン氏は「FOMCの議論では労働市場軟化を示す兆候の方が、インフレリスクを上回るだろうとの見方に、今の市場は傾いているようだ」と述べた。

市場が織り込む9月の0.25ポイント利下げの確率

ジャクソンホール会合でのパウエル議長講演が、今週最大の焦点になる。FOMCを巡る市場の議論は利下げの是非から、利下げの幅と時期に移っていると、グレンミードのジェイソン・プライド、マイケル・レイノルズ両氏は指摘する。

「9月利下げのお膳立てはそろっている。インフレが比較的抑制されている状況は続き、労働市場には悪化の初期兆候が見え始めた」と述べた。

FRB議長が話した日の2年債利回りと10年債利回りの動き
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

トレジャリー・パートナーズのリチャード・サパースティーン氏は、雇用統計で過去の雇用者数の伸びが下方修正された事実と、インフレ率の安定を理由に、FRBはジャクソンホールという機会を利用して市場に準備を促し、年内を通じて緩和的となり得る姿勢を示唆するとみている。

「予想外に弱かったここ数カ月の雇用者数への反応として、9月は25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げになるだろう」とサパースティーン氏。「インフレ安定と経済成長の継続という強力コンビに金利低下見通しが加わり、現在の株価バリュエーションが正当化される」と述べた。

S&P500種株価指数採用銘柄のうち決算が予想を上回った割合

株価収益率(PER)が高くても、年末にかけて企業利益が伸びることから、株価には引き続き追い風が吹くとサパースティーン氏は指摘。「経済は3年に及ぶ高い金利に、最近では関税というショックが加わったにもかかわらず、たくましさを示し続けている」と述べた。

S&P500種株価指数の採用銘柄が発表した四半期決算は、予想を大きく上回った。関税の影響を抑え、ドル安の恩恵を享受できたことが寄与したと、ゴールドマン・サックス・グループのストラテジストが分析した。

米国株チーフストラテジストのデービッド・コスティン氏はリポートで「4-6月期決算は過去に例をあまり見ない頻度で事前予想を上回った」と述べた。

ウォール街のアナリストは7-9月期の利益予想を約4年ぶりのペースで引き上げている。シティグループが算出する米企業の1株利益予想における上方修正と下方修正の比率を示す指数は、2021年12月以来の高水準にある。

個別企業のニュースでは、デンマークの製薬大手ノボノルディスクは、米国の患者が糖尿病治療薬「オゼンピック」を現金で購入する場合の価格を大幅に引き下げた。オゼンピックは米国で高額医薬品の象徴とされている。同社の肥満症治療薬「ウゴービ」は重度の肝疾患への適用で米食品医薬品局(FDA)から認可を受けた。

ニューヨークのブティックホテル所有者を中心とする投資家グループは、会員制の高級ホテル・クラブを運営する英ソーホー・ハウスを27億ドル(約4000億円)の取引で非公開化することに合意した。

カナダ最大の航空会社エア・カナダは、年末までの業績予想を撤回した。客室乗務員のストライキにより数百便が運航停止となったことが理由。

鴻海精密工業はソフトバンクグループが保有する米国工場の運営を手掛ける。ソフトバンクGがオープンAIやオラクルと共同で進める5000億ドル規模の人工知能(AI)インフラ事業「スターゲート」計画における初の製造拠点となる見通しだ。

動画:連邦公開市場委員会(FOMC)の見通しを伝えるブルームバーグテレビジョン

米国債

米国債相場は3営業日続落。トレーダーの関心はジャクソンホール会合で予定されるパウエル議長の講演に集中し、金利政策のヒントを探ろうとしている。

10年債利回りは一時3bp余り上昇し4.35%を付けた。利回り上昇は先週14日、生産者物価指数(PPI)が3年ぶりの大幅上昇となって以降続いている。他の年限でも利回りは同程度の幅で上昇し、英国債利回りの大幅上昇を追う格好となった。

数週間前から強弱混在の経済統計が続いた後、投資家の関心は22日のパウエル議長講演に絞られている。市場では少なくとも9月の25bp利下げが織り込まれており、これを裏付けるようなハト派的な姿勢を期待している。

TDセキュリティーズの米金利戦略責任者ジェナディー・ゴールドバーグ氏は「市場にとっては、議長が利下げに肩入れしないことが大きなリスクだ」とブルームバーグテレビジョンで話した。「議長が市場の織り込み具合を否定して『そもそも金利を引き下げる必要があるだろうか』などと言おうものなら、それこそ市場は慌て始めるだろう。今の市場は利下げが決まったも同然のような状態だからだ」と述べた。

10年債利回りの動き

金利スワップ市場では9月利下げの確率がおよそ80%として織り込まれている。50bpの大幅利下げに賭けるトレーダーもいる。

ジャクソンホール会合にはサプライズを生んできた歴史がある。2022年の講演では、パウエル議長がインフレとの闘いが家計と企業に苦痛をもたらすと警告し、これを受けて短期債利回りが上昇した。

昨年のジャクソンホール会合では、パウエル議長が20年ぶり高水準にあった金利を引き下げる用意があると示唆。2年債利回りはその日に大きく下げた。FOMCは翌月の会合で50bpの利下げを決定し、利下げサイクルが始まった。一部のトレーダーは今年も同様の展開になると期待している。

外為

ジャクソンホール会合を控えた外為市場で、ブルームバーグ・ドル指数は薄商いの中を上昇。主要10通貨は比較的狭いレンジ取引となった。パウエルFRB議長の講演は22日に予定されている。

トランプ米大統領はホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談。この後にロシアのプーチン大統領を交えた3者会談をとりまとめたいと語った。

対ドルでの下げが主要10通貨中で最も顕著な円は、一時148円に迫った。

為替市場のボラティリティーは全般に極めて低い。ラボバンクの通貨戦略責任者、ジェーン・フォーリー氏は「このまま安定というのが今のテーマだ。ボラティリティーは4月に市場で想定されていたよりずっと低い」とブルームバーグラジオで指摘した。

「市場のドル・ショートが若干行き過ぎていた可能性はある。しかしFOMCの緩和バイアスを考えると、その前に飛び込むのは難しい」と述べた。

米国証券保管振替機構(DTCC)のデータによれば、オプション取引高は最近の平均を約27%下回っている。

今週は22日のパウエル議長のほか、ボウマンFRB副議長が19日、ウォラー理事が20日に発言機会がある。

経済統計では19日の住宅着工件数や、21日の新規失業保険申請件数、S&P米製造業購買担当者指数(PMI)が注目されている。

原油

ニューヨーク原油先物相場は反発。トランプ米大統領とウクライナ大統領による会談の様子が伝わる中、ロシアとの紛争が早期に解決するとの期待は後退した。

ゼレンスキー氏はホワイトハウスの会談で、戦争を終結させるための外交的な手段を見いだす必要があると述べた。

CIBCプライベート・ウェルスのシニア・エネルギー・トレーダーのレベッカ・バビン氏は、「ゼレンスキー氏のこうした発言で、もともと低かった停戦の可能性はさらに後退したとみられる」と指摘。「原油トレーダーはここ数年、停戦への期待と制裁強化の脅威が交錯する中で翻弄(ほんろう)されてきた。結果として、リスクテーク意欲はいずれの方向にも限定的だ」と述べた。

動画:ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州の首脳らがホワイトハウスでトランプ大統領と会談

ウクライナ戦争の解決に向けた協議は市場に不透明感をもたらし、足元で原油相場が狭いレンジにとどまる要因となっている。ロシア産原油の流通が一段と自由になる可能性を伴うためだ。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物9月限は、前営業日比62セント(1%)高の1バレル=63.42ドル。ロンドンICEの北海ブレント10月限は1.1%上げて66.60ドルで終了。

金相場は小幅下落。パウエルFRB議長がジャクソンホール会合で利下げを示唆する可能性が意識された一方、米政府によるウクライナ戦争終結に向けた重要な外交交渉を見極めようとの動きも見られた。

金は過去数営業日にわたって狭いレンジでの動きが続いている。今週は世界各国・地域の中央銀行関係者がワイオミング州ジャクソンホールに集まる予定だ。市場は来月のFOMC会合で利下げが行われるとおおむね予想している。金利低下は利息を生まない金にとって追い風となる傾向がある。

シンガポールのフィリップ・ノバのアナリスト、プリヤンカ・サチデワ氏は「市場はジャクソンホール会合でFRBがよりハト派的な姿勢を示すとの期待を強めており、先週発表されたやや強めの米インフレ指標はほぼ無視されている」と述べ、市場全体としては、インフレ圧力は弱まっているとの見方が大勢だとしている。

スポット価格はニューヨーク時間午後2時46分現在、前営業日比3.94ドル(0.1%)安の1オンス=3332.25ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は4.60ドル(0.1%)安の3378.00ドルで終えた。

原題:Wall Street Holds Its Breath Before Jackson Hole: Markets Wrap(抜粋)

原題:US Treasuries Fall For Third Day as Traders Eye Powell Speech(抜粋)

原題:Dollar Edges Higher as Jackson Hole Caps Week: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Gains as White House Meeting Dims Ukraine Ceasefire Outlook(抜粋)

原題:Gold Wavers as Traders Look to Jackson Hole and Ukraine Talks(抜粋)

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