(ブルームバーグ):ドイツのスポーツ用品大手プーマは過去2年余り、ブランドの「格上げ」とスニーカーやアパレルの高付加価値化に取り組んできた。しかし、先月就任したアーサー・ホールド最高経営責任者(CEO)は率直な評価を下している。プーマは安価なブランドと見なされているとの認識だ。
競合メーカーのアディダスで長年にわたり実績を積んできたホールド氏は、プーマの立て直しと成長軌道への回帰という課題に直面している。
創業77年を迎える同ブランドが再建を迫られるのは今回が初めてではない。現在はハーレーダビッドソンのCEOを務めるヨッヘン・ツァイツ氏や、2023年にアディダスのCEOに就任したビョルン・ガルデン氏らが過去にプーマのブランド再生に取り組んできた。
しかし、ホールド氏の前に立ちはだかる壁は高い。オン・ホールディングやホカなどの新興ブランドは急成長を遂げており、小売店でも存在感を強めている。アディダスは復刻版「サンバ」の人気が続き、ナイキも一時的な業績低迷を乗り越え、エリオット・ヒルCEOの下で再び勢いを取り戻しつつある。
さらに、プーマ自身ではどうにもできない課題もある。急速に進むユーロ高と、トランプ米大統領の関税措置に起因するコスト上昇だ。ホールド氏は先月、関税の影響を背景に通期業績見通しを下方修正し、調整後利払い・税引き前利益(EBIT)が赤字となる見通しを示した。
プーマ通期赤字見通し、需要低迷と米関税響く-株価は一時19%安
RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、ピラル・ダダニア氏は「この再建はかなりリスクが高いタイプのもので、実行力がより一層問われる局面にある」と語った。
ホールド氏にとって喫緊の課題は、損失の拡大に歯止めをかけることだ。ドイツ銀行のアナリスト、アダム・コクラン氏は顧客向けリポートで、プーマは世界各地の倉庫に売れ残りのスニーカーやアパレルを多く抱えていると指摘。その在庫を処理して小売業者の仕入れ意欲を回復させるには、1年超を要する可能性があるとの見方を示した。
プーマは長年、スポーツ用品業界で微妙な立ち位置にある。サッカーやバスケットボール、ランニングなど幅広い分野に展開してはいるものの、総合スポーツブランドとしてはナイキやアディダスに及ばない。製品価格も一般的に低めに設定されており、特定のニッチ市場では独自の存在感を発揮してきた実績がある。
2013年にガルデン氏がプーマのCEOに就任した際は、事業の焦点を再び競技用分野に絞った。ブランドの象徴的存在だった陸上界のスーパースター、短距離走者ウサイン・ボルトに大きく依存する戦略を取ったのだ。
それから10年余りが経ち、今春に展開されたプーマの「Go Wild」キャンペーンには、かつての反骨精神の面影はほとんど見られなかった。気分よく走りたい一般のランナーを対象とした広告だったが、アディダスが打ち出す「You Got This(大丈夫、いける)」というメッセージや、オンが展開したセサミストリートのキャラクター「エルモ」が登場する動画に比べると、存在感を発揮するには至らなかった。
そんなプーマの混迷ぶりを象徴するのが、「スピードキャット」スニーカーを巡る展開だ。
2023年、アディダスが復刻版「サンバ」のヒットで市場を席巻するなか、プーマは対抗策となる復刻版「パレルモ」の投入で後れを取った。当時の経営陣は、レトロな薄底スニーカーの次のトレンドを主導することで巻き返しを図ると説明していた。
その本命として期待をかけたのが、1990年代に登場した「スピードキャット」だった。このスニーカーは、当時のツァイツCEOの下、プーマがモータースポーツ市場に進出する一環として開発された経緯を持つ。2024年に入り、ジェニファー・ローレンス氏ら著名人がスピードキャットを着用し始め、今年に入ってプーマはようやく本格的な生産拡大に踏み切った。
プーマは、このスニーカーが思ったほど市場に浸透していないことを認めている。
追い打ちをかけるように、アディダスは「サンバ」以降の需要を狙って「テコンドー」シリーズを投入。リセールプラットフォームのStockXによれば、現在はプーマの「スピードキャット」を上回る人気を得ている。
プーマに投資するデカ・インベストメントのポートフォリオマネジャー、インゴ・シュパイヒ氏は、ホールド氏がアディダスで積んだ豊富な経験がプーマの立て直しに生きることを期待している。ホールド氏は、アディダスでレトロ系フットウェアやアパレルの事業を長年統括し、欧州・中東・アフリカ地域の責任者を経て、昨年10月までグローバル営業責任者を務めていた。
原題:Puma’s New Boss Takes Helm Trailing Adidas and a Recovering Nike(抜粋)
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