1―「所有権」は強力な権利だが、一定の制限がある
「持ち家を購入するか、それとも賃貸住宅で暮らすか」。この「住まいの選択」に関する問いは、「どちらが得か」といった経済合理性の観点から語られることが多い。持ち家は、住宅ローンの返済や各種維持費を含めると、総額で数千万円から数億円の支出が見込まれる。一方で賃貸は、生涯にわたって家賃を支払い続ける必要があり、資産として手元に残らないことから、「家賃は支払い損」との見方も少なくない。
実際には損得勘定だけでなく、各人のライフスタイルや価値観を踏まえた判断が求められるが、そのうえで、住宅に関する法制度を正しく理解することも欠かせない。そこで本シリーズでは、住宅リテラシーの向上に向けて、知っておきたい住宅に関する基本的な権利や制度について解説する。本稿では不動産の「所有権」について取り上げる。
「所有権」は、不動産の「使用」・「収益」・「処分」を自由に行うことができる強力な権利である。また、「所有権」を保護するために、他人による不法占拠や妨害に対して、返還請求や妨害排除といった具体的な法的手段が認められている。
もっとも、持ち家を購入したからといって、何をしても許されるわけではない。「所有権」には一定の制限があり、具体的には、「権利の濫用」、「相隣関係」、「公法上の制限」、「共有」、「所有者等の管理責任」などが挙げられる。本稿では、これらのうち「権利の濫用」について解説したい。
