年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の内田和人理事長はブルームバーグとのインタビューで、日米両政府が関税交渉で合意し、米国が日本からの輸入品に課す税率が15%と当初の想定から下がったことについて「市場にとって非常に好影響が期待できる」との見方を示した。

トランプ米政権の通商政策は、4月に国内外の株式相場を急落させるなど市場への影響が大きい。今後も「世界経済の状況や関税の影響はよく注視をしていかなくてはいけない」と話した上で、運用資産の基本ポートフォリオの運営を「変更する必要はない」との考えを説明した。4月に大きく動いた相場は回復し、足元では3月末を上回って推移している。

内田氏は、市場は米国が日本からの輸入品に課す関税率について「一番厳しい数字を織り込んでいた」と指摘した。世界の地政学的なリスクが高まる中、「運用環境の分析を一層強化し情報収集している」とも述べた。

内田和人理事長が4月に就任した

内田氏は世界最大級の年金基金のトップに4月に就いた。就任後、初めて報道機関の単独インタビューに応じた。GPIFは2025年1-3月期(第4四半期)の運用損益が8兆8152億円の赤字と、2四半期ぶりに収益率がマイナスだった。世界経済の先行き不透明感が強まる中、今後のかじ取りが注目されている。

財政出動の拡大や日本銀行の追加利上げへの観測などを反映して金利が上昇傾向にある。短期的な市場の変動は「われわれの運営には全く影響がない」と語った。金利ある世界では利息や配当金の収入が増えやすいとみて、「過度な変動でなければポジティブに効く」との考えを示した。

GPIFは原則5年に1度、基本方針や資産配分などを定めた中期計画を見直している。運用環境が大きく変化する可能性がないかを適時検証し、期間中でも必要に応じて修正する。25年度からの新計画の下、最高投資責任者(CIO)に副CIOだった吉澤裕介氏が就き、新体制がスタートした。

GPIFは運用資産を国内外の株式と債券にそれぞれ25%ずつ配分する基本ポートフォリオを設けている。市場価格の変動で構成比が大きく変わった場合は元の水準に近づけて調整している。

株高や円安などを追い風に、前計画期間の5年間には累計で98兆円資産を増やした。25年3月末の運用資産残高は249兆7821億円だった。

内田氏は「リバランスによって、基本ポートフォリオから乖離するリスクをなるべく抑えていく」と運用戦略を述べた。GPIFの規模が拡大しているため、市場に与える影響を抑えながらリバランスするには、株式の先物取引や国債の直接入札などを活用する必要性がより高まっているとの認識を示した。

インタビューに応じる内田氏

オルタナティブ資産で新チーム

GPIFは超過収益を確保するため、上場株式や債券の代替(オルタナティブ)資産である不動産やインフラストラクチャーなどに投資している。資産全体の5%を上限と位置づけ、25年3月末では1.63%を占める。

内田氏は就任後、上場資産と比べたオルタナ資産の超過収益を分析するチームを新設したと明らかにした。オルタナ投資では、伝統的な株式や債券の収益を上回る水準を「確実に確保することが大前提条件」だとし、「非常に難易度の高い状況になっている」と述べた。

GPIFは21年度以降にオルタナ投資に積極的に取り組んでいる。22-23年度は世界的な金利上昇で不動産市況が停滞したほか、最近ではプライベートエクイティー(未公開株、PE)に関しても「グローバルでそんなに環境がいいとは言えない状況」だと語った。「リスクとリターンをしっかりと分析した上で今後も取り組んでいきたい」との考えを示した。

--取材協力:梅川崇、Aaron Clark.

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