数十億ドル規模のM&A(企業の合併・買収)案件の復活は、銀行のレバレッジドファイナンス部門にとって朗報となるはずだった。だが実際には、その期待は裏切られつつある。

プライベートエクイティー(PE、未公開株)ファンドのシンベンやプラチナム・エクイティー、ジェイコブズ・ホールディングなどは今年、債務契約に「ポータビリティー条項」を盛り込んでいる。

ポータビリティー条項があると、PEファンドが企業を売却する際に既存の債務を返済せず、支配権が移った後も債務をそのまま引き継がせることができる。このため、新たな借り入れの必要額が抑えられる。

レバレッジドファイナンスを専門とするフォックス・リーガル・トレーニングのサブリナ・フォックス氏は「こうした条項の導入が広がれば、銀行はレバレッジドバイアウト(LBO)関連の資金調達引き受けに伴う高額な手数料を失うことになる」と述べている。

PEによる買収案件の復活を心待ちにしていた銀行にとって、こうした動きは想定外だった。通常、買収資金の調達を引き受ければ、銀行は手数料として2-3%を得ることができる。たとえば5億ドル(約740億円)規模の取引では最大1500万ドルもの手数料が見込める。

しかし、ポータビリティー条項が設定されれば、この利益機会は失われる。たとえば、企業価値が最大60億ユーロ(約1兆円)とされる教育事業会社コグニタは、ブラックストーンやCVCキャピタル・パートナーズからの買収提案を受けているが、既に買収資金の手当てを済ませている。

同社は今月、既存のユーロ建ておよびドル建てローンの条件を見直し、規模を拡大するリプライシングを実施。新契約にはポータビリティー条項が盛り込まれており、新オーナーが現在の親会社ジェイコブズ・ホールディングから買収するための借り入れのうち、少なくとも19億ユーロ相当については、新たな調達が不要な仕組みになっている。

コグニタのリプライシングはゴールドマン・サックス・グループが主導したが、実質的な収益にはほとんどつながらない可能性が高い。欧州市場では通常、こうした案件に対する報酬は10万-50万ユーロ程度とされる。

コグニタの広報担当者は案件についてコメントを控えた。ゴールドマンの広報担当者もコメントを控えた。

 

従来、PEファンドは自らの出資と銀行からのアンダーライティング付き融資を組み合わせて企業を買収し、その融資債権は最終的に機関投資家に売却されるという仕組みが一般的だった。

PEファンドが数年後に投資を回収する際には、企業の支配権が移るとともに既存の融資が返済され、新たな資金調達が始まり、銀行には再び手数料収入が発生するという循環型のビジネスモデルが成立していた。

しかし、ポータビリティー条項はその循環を断ち切り、PEファンドと銀行の関係性そのものを揺るがしている。

原題:Private Equity Cuts Leveraged Loan Banks Out of M&A — and Fees(抜粋)

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