WHO憲章において、健康とは単に病気でないということだけでなく、肉体的・精神的・社会的に満たされている状態と定義されているが、政策の現場では、これまで健康の社会的側面は軽視される傾向があった。

しかし孤独・孤立が、病気、早死、精神保健の悪化をもたらすことのエビデンスが蓄積され、さらに個人の健康にとどまらず社会全体に悪影響を及ぼすことから、孤独・孤立は次第に公衆衛生上の課題として捉えられるようになった。

このためWHOでは孤独・孤立対策の委員会を立ち上げ、2025年6月30日に
報告書『孤独から社会的なつながりへ』(From Loneliness to Social Connections)を発表した。

報告書によると、世界全体で人口の15.8%が孤独を抱えており、若年層ほど高い割合となっている。

17歳以下と60歳以上は女性、18~59歳は男性の方が孤独を抱えている割合が高い。
地域別にみると、アフリカと東地中海地域(中近東など)が孤独を抱えている割合が高く、欧州は低い。

孤独・孤立は、健康面では心疾患や糖尿病の増加、認知症の発症、うつ病のリスクを高める恐れがある。

さらに、学業成績の低下、就業継続困難などから、貧困にもつながり、経済的には医療費や労働生産性の低下などのかたちで、社会保障財政や雇用主におけるコスト負担にを招きかねない。

近年、先進国を中心に孤独・孤立対策の戦略やアクションプランを策定する動きが広がっている。そうした中、わが国日本は唯一、法律を制定した。

広範にわたりがちな孤独・孤立対策に適切に資源を投入するため、諸外国の取り組みをベンチマークとして政策効果を高めていくことが重要だ。

(※情報提供、記事執筆:日本総研 調査部 副主任研究員 岡元真希子)