Kポップの人気男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」のメンバーが兵役を終え、世界ツアーの再開を計画する中でも、韓国で最近最も熱視線が注がれているのは株式市場だ。

世界の投資家から5月と6月に約30億ドル(約4400億円)の資金を集めた韓国株式市場では、今年上期に指標の韓国総合株価指数(KOSPI)が約28%上昇した。世界ではスロベニア優良株指数とザンビアの株式指数、ポーランドの20銘柄で構成されるバスケット指数に次ぐ大幅高を演じた。

ここ数カ月、「非常戒厳」の宣布(数時間後に解除)や大統領の弾劾と失職、トランプ米政権の関税措置など、政治・経済が大きな混乱に見舞われた韓国にとってこれは劇的な転換だ。

現代やLG、サムスンといった大手輸出企業に大打撃となり得る関税のハードルに加え、中東やウクライナでの戦争に起因する世界的な景気低迷にもかかわらず、投資家は韓国株に群がっている。それは、韓国のビジネス文化が大きな変革期を迎えると見込まれるからだという。

韓国投資信託運用のポートフォリオマネジャー、キム・キベク氏は、「こうした動きは、一度始まれば止められない」と語る。

韓国経済は、何十年にもわたり「財閥」と呼ばれる大企業によって支配されてきた。約70年前の朝鮮戦争のがれきの中から立ち上がったこれらの企業は、特定の一族が所有する。前述の巨大企業に加え、Kポップのヒット曲を手がけた企業や鉄鋼メーカーといった知名度が低い企業も含まれており、企業統治の弱さや競争の抑制、相続税の回避などを巡って長年批判されてきた。

コリアディスカウント

1960年代から70年代にかけての権威主義的な政権の支援を受け、財閥は韓国を経済大国へと変貌させる一翼を担った。

しかし、規制当局や投資家の間では、これらの企業を足かせと見なす傾向が強まり、台湾や日本の同業他社に比べて韓国株式が低く評価される「コリアディスカウント」現象の要因と受け止められている。こうしたディスカウントは長年、好戦的な北朝鮮との近さが原因とされてきたが、現在では根本原因は財閥の企業統治に対する懸念にあるとの見方が広がりつつある。

韓国の最近の混乱には少なくとも一つの恩恵があった。投資家の不安を和らげる企業関連法が制定されるとの期待感だ。有権者は、罷免された尹錫悦前大統領に代わり、「共に民主党」の李在明氏を選出。同党が国会で過半数議席を掌握しているため、資本市場に関する法案を可決する可能性が格段に高くなった。国会の最優先課題は、少数株主の利益を犠牲にし創業家が利益を得る状況を是正する措置だ。

 

李氏は選挙戦で、KOSPIを当時の約2倍に当たる5000まで押し上げることを公約に掲げた。資本市場に関する公約を実行するための特別委員会「KOSPI5000」も創設した。指数が5000に早期に到達する可能性は低いが、選挙から数週間後の6月20日に3000を突破しており、投資家の間で楽観的な見方が広がっている。

「現段階では4000は不可能ではない」とソウルにあるトーラス・アセット・マネジメントの株式投資マネジャー、チャ・ソヨン氏は述べ、「今回は企業のファンダメンタルズが支えになっているからだ」と指摘した。

個人投資家の力

韓国の国内投資家はそうした見通しに文字通り投資している。現在、国民の約30%が株式を保有しており、2019年の2倍以上に増加。個人投資家は強力な政治勢力となっている。昨年には建設機械メーカー、斗山グループの子会社2社の合併計画に個人投資家が反対し、計画は頓挫。また、国内株式の小口保有に対するキャピタルゲイン課税の導入案も個人投資家の反発を受けて議員らは撤回した。

財閥構造の改革が容易ではないことを投資家は承知している。15年には、米ヘッジファンド運営会社エリオット・マネジメントがサムスンの子会社同士の合併に反対したが、阻止には至らなかった。また、歴代大統領もさまざまな改革を試みたが、財閥の抵抗により実効性を欠いた。

李大統領は自らを「アリ」と呼ぶことが多い。これは小口投資家が団結力を表現するために使う言葉で、李氏は拘束力のある改革を提案している。ピクテ・アセット・マネジメントのファンドマネジャー、ジョン・ウィザー氏(シンガポール在勤)は、共に民主党が今後、はるかに容易に改革を進められると予想。李大統領が「コリアディスカウントの解消に向けて熟慮して取り組んでいる」と評価した。

一方、NHアムンディ資産運用のパク・ジンホ氏は、財閥に改革を受け入れさせるための一案として、創業者らにとって懲罰的と受け止められるような施策は避けるべきだと提言。世界最高水準の配当税や相続税の引き下げを通じ、財閥一族が資産を多様化できる手段を提示すべきだと述べ、「財閥は韓国経済に大きく貢献してきた」と指摘した。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:South Korea’s Corporate-Overhaul Hope Fuels 28% Gain in Stocks(抜粋)

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