トランプ米政権の関税という逆風にさらされてきた自動車株に思わぬ買い戻しが入るとの警戒感が出始めている。投資家心理が大きく弱気に傾いただけに、日米関税交渉が合意に達すれば、来期の業績回復や現地生産拡大への期待に焦点がシフトしてもおかしくない。

米国が課す自動車関税25%の引き下げは日本の最優先事項の一つだ。日本は米国での現地生産が輸出台数を大きく上回ると主張し、同関税への特例措置を求めてきた。

トランプ米大統領が7日に発表した対日関税率の引き上げは導入が8月からとされたため、市場では事実上の延期との見方が広がった。7月20日の参議院選挙後に日米が合意に達する望みが残ったと三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは指摘。国内的に難しい課題であるコメなどの米国産農産物の輸入拡大と引き換えに、自動車関税での譲歩を引き出すという見立てだ。

自動車株は1年以上相場全体をアンダーパフォームしている。2024年3月末以降、東証株価指数(TOPIX)が約2%上昇したのに対し、自動車を含む東証輸送用機器指数は約27%下落した。トランプ大統領の予測不能な貿易政策だけでなく、中国の電気自動車(EV)メーカーとの競争激化も株価の上昇を阻む。

しかし、投資家の見方がほぼ総弱気となる中、今後はむしろトレンドの反転に警戒すべきとの声が出始めた。

アストリス・アドバイザリー・ジャパンの投資戦略責任者、ニール・ニューマン氏は「ここからさらに下値を期待している投資家はいないだろう。むしろ今のポジションの傾きぶりからすると、長い目で見れば回復の可能性が高い」と述べた。

しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは「関税率が固まれば価格戦略や現地生産の拡大といった対応策も定まり、11月ごろの上期決算発表時には会社側の業績予想に関税影響が織り込まれるだろう」と話す。自動車は来期(27年3月期)に増益率トップの業種になる可能性があり、「今期後半から株価が持ち直していく展開もあり得る」と言う。

ニューマン氏をはじめとして下値リスクが限定的との見方が増えつつある一方で、反発にはもう少し時間を要するとの見方も多い。

株価反発の局面では「トヨタやホンダなど財務体質が強い企業と、そうでない企業で二極化する」と藤原氏は読む。米マシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントの竹内俊太郎ポートフォリオマネジャーも「市場シェアを高めるなどで危機を乗り越え、より強くなり横綱相撲を取れる企業」が有望だとみている。

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