アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビにある金融センターではオフィスの入居率が97%に達し、その好況を物語っている。しかし、いざその高層ビル群に足を踏み入れると、静まり返った廊下や無人のデスクが並ぶ様子に目がいく。この矛盾は、近隣のドバイや世界各国の金融拠点と競うために進めてきた政策に起因している。

2兆ドル(約292兆円)近くを運用する政府系ファンド(SWF)との距離の近さを武器に現地での拠点設立やスタッフの再配置を促すキャンペーンを展開。これによって、金融センターであるアブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)には大手銀行やプライベートマーケットの関連企業が集積し、ペルシャ湾の「ヘッジファンド・アイランド」と評されている。

ADGMの規則では、大半のチームが国外にいたとしても、企業は物理的なオフィスを構え、UAE在勤の従業員を少なくとも1人雇用しなければならない。一部の企業はこの規則に従うものの、デスク1台と現地雇用1人のみで日常的にはオフィススペースをほとんど利用しないという最低限の対応にとどめている。

その結果、広々としたフロアを占有して増加する従業員でにぎわう企業がある一方で、形だけの拠点を構える企業もあり、入居率100%のオフィスビルの一部が閑散としている様子も見られる。

アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)にあるコワーキングオフィス

ADGMの広報担当者は、企業の現地拠点を視察や内部報告を通じて監督しているが、オフィスで勤務する従業員数については規定していないと電子メールで回答。「企業は長期的な事業計画の一環としてオフィススペースを確保しており、アブダビに拠点を構える強い意志を表している」とも指摘している。

こうした状況で、ADGMで事業を積極的に進める一部の企業がオフィスの確保に苦戦している。不動産仲介大手のサヴィルズによると年間の賃料は1平方メートル当たり2900ディルハム(約11万5000円)に達することもあり、昨年の約2600ディルハムから大幅上昇している。

背景には、アブダビ全体では従業員が年率で17%増加し、2万9000人に達していることがある。アブダビ全体での好況を反映している形で、昨年の都市人口は7.5%増えて414万人になった。

需要の増加に対応しようとアブダビでは新たに9万8000平方メートルのオフィススペースを供給する2棟の高層ビルが建設中。さらに政府が支援するスタートアップ企業の拠点「ハブ71」では、創業して間もない企業向けに共有のワークスペースを提供し、オフィスを丸ごと借りなくても要件を満たせるようにしている。

こうした動きはドバイでもみられる。ドバイの金融センターではオフィスの入居率が98%に達しており、新たに3棟の高層ビルの建設や、ヘッジファンド系スタートアップ向けの拠点整備が進んでいる。

また、サウジアラビアの主要な金融地区では、リヤドの不動産事業のさらなる拡大に向けて、株式投資家から7億ドルの資金調達を目指していると、ブルームバーグ・ニュースが先に報じている。

原題:Abu Dhabi Financial Hub Is Full, Yet Unused Desks Are Plentiful(抜粋)

--取材協力:Nishant Kumar.

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